西鶴諸国ばなし(井原西鶴)のあらすじ・登場人物
世に無いものはなし、諸国の話の種
- 古典
- 心理
- 幻想
- 文字数
- 25,410字
- 読了目安
- 約51分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 奈良県
- 京都府
- 東京都
- 和歌山県
- 兵庫県
- 大阪府
- 福井県
- 岐阜県
- 長野県
- 静岡県
- 神奈川県
- 茨城県
- 熊本県
この作品について
井原西鶴の短編集。1685年(貞享2年)に大坂で刊行された。原作は全5巻35話で、題簽には「近年諸国咄 大下馬」とある。序には「世間の広き事、国々を見巡りて、はなしの種を求めぬ」とあり、熊野の湯の中の魚、豊後の手桶になる大竹、鎌倉の頼朝の小遣帳など、各地の珍しい話の種を数え上げて「人は妖物、世に無いものはなし」と締めくくる。収められた話は、狐や天狗、大蛇、化けた人形、幽霊、竜宮の使者といった怪異談を中心に、盗人や浪人の機転、大力の親子、親子や夫婦の情までを、西鶴らしい簡潔でおかしみのある文章で語る。大晦日に十両が一両足りなくなる「大晦日は合はぬ算用」は、のちに太宰治が『新釈諸国噺』で書き直した。本書は有朋堂文庫『西鶴文集 上』(1913年)による原文で、序と巻一〜巻四の28話を収める(底本は巻五を載せない)。国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて校正し、収録した。
あらすじ
【巻一】奈良の寺々が古い太鼓の持ち主を争い、学頭が「東大寺」の書き付けを削って興福寺のものにしてしまう(公事は破らずに勝つ)。京の御所では奥方の寝間に女の怪が現れ、女の大工が呼ばれて寝間を解体し、原因を探す(見せぬ所は女大工)。年の暮れ、江戸の浪人原田内助のもとへ義兄から送られた十両が、集まった客の前で一両足りなくなり、疑いが全員に及ぶ(大晦日は合はぬ算用)。紀州の観音の貸し傘が風に飛ばされて肥後の山里に落ち、土地の人々がこれを神と崇めて娘を捧げようとする(傘の御託宣)。伏見の盲人は足音だけで通る人の素性を言い当てる(不思議の足音)。箱根の庵の老人は、義経の郎党・常陸坊海尊と名乗って、昔の人々の意外な素顔を語る(雲中の腕押)。姫路の狐が、仲間を殺された仕返しに、米屋の一家を次々とからかう(狐四天王)。【巻二】津の国の山に置かれた女の乗物は、次々と姿を変えて人を苦しめる(姿の飛乗物)。海遊びの舟の上で、十二人の水練達者が大蛇にのまれる(十二人の俄坊主)。小浜で折檻を苦に海へ身を投げた奉公女の亡骸が、遠い大和の池の底から現れる(水筋の抜道)。生駒山の麓で老人を背負った商人が、老人の口から出る不思議な酒宴の饗応にあずかる(残るものとて金の鍋)。飛騨の奥山の隠れ里に迷い込んだ奉行は、夢の中で女の亡霊から仇討ちを頼まれる(夢路の風車)。京の北野に住む男は、幼い娘を連れ去っては、数日愛してまた親元へ帰す(男地蔵)。信濃の浅間の麓で、父の残した刀をめぐって兄弟が争う(神鳴の病中)。【巻三】盗みの疑いで牢に入れられた浪人の牢には、虱や蚤に芸を仕込む老人がいる(蚤の籠ぬけ)。京の酒屋の娘は葬られたはずが、焼場で息を吹き返す(面影の焼残)。酒飲みの同行四人が、聟入りをする男の顔に墨で作り髭を書く(お霜月の作髭)。筑前の独り身の武士のもとへ、毎夜美しい女が通ってくる(紫女)。諏訪の湖で沈んだ馬方が、竜宮の使いとなって現れ、村の男たちを誘う(行末の宝船)。吉野の山里で、竜が昇ったと騒ぐ人々に、道心者が世の珍しい話を語り、信長に霊鷲山の蓮の葉を語った策彦和尚の話を引く(八畳敷の蓮の葉)。豊後の兄の仇を討とうと、武士の親子が但馬へ向かう(因果の抜穴)。【巻四】大坂の浄瑠璃芝居の人形が、夜ごとにひとりでに動いて争い始める(形は昼の真似)。上野の花見で大名の姫に恋した若者が、扇に書かれた長歌を手がかりに、姫と手に手を取って駆け落ちする(忍び扇の長歌)。高野の檜物師と、子供の姿に化けた天狗との争い(命に替はる鼻の先)。鳥を捕り続ける常陸の猟師の子供が、夜中に三十七度身を震わせる(驚くは三十七度)。堺の浦で、魚売りたちが萎れた藤の枝を持つ女に出会う(夢に京より戻る)。鳥羽の車引きの子は、赤子のときから牛の子を持ち上げて育ち、洛中洛外の大力となる(力なしの大仏)。河内の内助が淵の猟師と、彼が可愛がった鯉の話(鯉のちらし紋)。
登場人物
- 原田内助 江戸品川の浪人。大晦日に義兄から十両を送られ、客を招く
- 門兵衛 姫路の米屋。狐の仲間を殺してしまい、一家で祟られる
- 常陸坊海尊 箱根の庵に現れた老人。義経一行の昔の素顔を語る
- 大仏の孫七 下鳥羽の車引き。力が無く、子に大力を継がせる
- 内助 河内の内助が淵の猟師。鯉を長く飼って可愛がる
冒頭部(原文より)
世間の広き事、国々を見巡りて、はなしの種を求めぬ。熊野の奥には、湯の中に鰭振る魚あり、筑前ノ国には、一つをさし荷ひの大蕪あり、豊後の大竹は手桶となり
「西鶴諸国ばなし」井原西鶴(青空文庫)
末尾部(原文より)
惣じて生類を深く手馴れる事なかれと、その里人の語りぬ。
「西鶴諸国ばなし」井原西鶴(青空文庫)
名文
世間の広き事、国々を見巡りて、はなしの種を求めぬ。熊野の奥には、湯の中に鰭振る魚あり、筑前ノ国には、一つをさし荷ひの大蕪あり、豊後の大竹は手桶となり、若狭ノ国に、二百余歳の白比丘尼のすめり、
井原西鶴『西鶴諸国ばなし』(1685年)の序。諸国を巡って集めた不思議な話の種を、湯の中の魚、担ぐほどの大蕪、二百歳の白比丘尼と畳みかける。最後に「人はばけもの」と結ぶ序の、軽快な列挙の部分。
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:「西鶴文集 上」(有朋堂文庫、有朋堂、1913年)所収の「大下馬 近年諸国咄」の序と巻一〜巻四。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて校正し、本文だけを収録した(ルビ・頭注・挿絵・各巻の目録・各話の頭の場所の副題は省いた)。底本は原作の巻五(7話)を載せていない。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。