山の手小景(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
山の手の夫婦と苺売りの少年
- 風刺
- 社会
- 文字数
- 2,006字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
明治35年(1902)12月の日付をもつ泉鏡花の掌編。「矢来町」と「茗荷谷」の二つの場面からなり、東京の山の手の夜の散歩に出た夫婦のぎこちない会話と、貧民の子らが通う学校の朝の坂で、いたずら盛りの少年と苺売りの童が出会う場面を、軽妙な筆致でスケッチする。
あらすじ
「矢来町」。夫婦で散歩に出た男は、細君に下駄を買ってやろうかと声をかけるが返事がもらえず、細君は貞淑を保って黙っている。若い男が通ると、「にやけた奴だ」と小声で言って気を晴らす。男は山高帽に洋杖、銀側の時計をひけらかすが、細君の下駄は泥まみれの高い駒下駄で、玄関番の学僕のせいで手入れもされていない。夜の神楽坂を、二人は話もなく歩いていく。「茗荷谷」。朝の暗がり坂を、跣足の少年が「苺だ、苺だ」と威勢よく叫びながら駆け下りてくる。坂の下で待っていたのは、貧しい家の子が通う補育院へ行く、九つばかりの男の子だった。「おくんな」と声をかけられた少年は、「吉公か」と舌打ちして悪態をつく。小脇に抱えた目笊いっぱいの苺は、実は盗んだものだった。
冒頭部(原文より)
「お美津、おい、一寸、あれ見い。」と肩を擦合はせて居る細君を呼んだ。旦那、其の夜の出と謂ふは、黄な縞の銘仙の袷に白縮緬の帶、下にフランネルの襯衣、これを長襦袢位に心得て居る人だから、けば/\しく一着して、羽織は着ず、洋杖をついて、紺足袋、山高帽を頂いて居る、脊の高い人物。 「何ですか。」 と一寸横顏を旦那の方に振向けて、直ぐに返事をした。此の細君が、恁う又直ちに良人の口に應じたのは、蓋し珍しいので。……西洋の諺にも、能辯は銀の如く、沈默は金の如しとある。
「山の手小景」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
童は猿眼で稚いのを見ると苦笑をして、 「おゝ! 吉公か、ちよツ、」 と舌打、生意氣なもの言ひで、 「驚かしやがつた、厭になるぜ。」 苺は盜んだものであつた。
「山の手小景」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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