重右衛門の最後(田山花袋)のあらすじ・登場人物
村に牙をむく「自然児」
- 心理
- 文字数
- 42,138字
- 読了目安
- 約1時間24分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 長野県
この作品について
田山花袋が1902年(明治35年)に書き下ろしで発表した中編小説。「蒲団」以前の初期作で、ツルゲネーフの影響を色濃く受けた自然主義の先駆的な一編である。信州の山あいの小村を舞台に、村の秩序に牙をむく放蕩者・重右衛門と、村人たちとの確執を描く。抑えがたい人間と自然の激情を「自然児」重右衛門に託して活写した、花袋の出発点を示す作品である。
あらすじ
五、六人が集まったある席上で、ツルゲネーフの小説の話から、一人の男が語り出す。自分はかつて、猟人日記にでも出てきそうな、自然の力そのままの人物に田舎で邂逅して、深く心を動かされた、と。「自分」は、東京で親しくなった信州(長野)出身の二人の学生を頼って、六年ぶりにその山あいの村を訪ねる。尾谷川の激流と高社山を望む、戸数百ほどの平和な小村――ところが村は今、かつて何十年も例のなかった連続放火に脅かされ、夜も碌々眠れぬありさまだった。犯人は分かっている。重右衛門という四十二、三の放蕩者で、素行の悪さから五、六年も前に村人から相手にされなくなった男である。彼は、飯綱原で野育ちの、獣のように敏捷な少女を嚊代りに連れており、自分は手を下さず、この少女に命じて火を放けさせるので、犯人と知れていても捕えることができない。美しく平和なこの村に噴き出した、抑えがたい人間と自然の激情――「自分」はそこに、山中にも絶えぬ人生の巴渦の烈しさを見る。やがて重右衛門とその少女は非業の最期を遂げ、二人の墓は寺に建てられて、村人が折々に香花を手向けるようになる。「諸君、自然は竟に自然に帰った!」――ツルゲネーフの影響のもと、村の秩序に牙をむく「自然児」の破滅を描いた、田山花袋の初期自然主義の代表作である。
登場人物
- 重右衛門 素行の悪さから村人に見放された四十二、三の放蕩者。獣のような少女を使って村に連続放火を働き、「自然児」として村の秩序に牙をむくが、非業の最期を遂げる
- 少女 飯綱原で野育ちの、獣のように敏捷な娘。重右衛門の嚊代りとなり、命じられるまま火を放つ
- 自分 信州出身の学生を頼ってその山村を訪ね、重右衛門の一件を見聞きする語り手
冒頭部(原文より)
五六人集つたある席上で、何ういふ拍子か、ふと、魯西亜の小説家イ、エス、ツルゲネーフの作品に話が移つて、ルウヂンの末路や、バザロフの性格などに、いろ/\興味の多い批評が出た事があつたが、其時なにがしといふ男が急に席を進めて、「ツルゲネーフで思ひ出したが、僕は一度猟夫手記の中にでもありさうな人物に田舎で邂逅して、非常に心を動かした事があつた。」
「重右衛門の最後」田山花袋(青空文庫)
末尾部(原文より)
其村の人々には自分は今も猶交際して居るが、つい、此間も其村の冒険者の一人が脱走して自分の家を尋ねて来たから、あの後は村は平和かと聞くと、「いや、もうあんな事は有りはしねえだ。あんな事が度々有つた日には、村は立つて行かねえだ。御方便な事には、あれからはいつも豊年で、今でア、村ア、あの時分より富貴に為つただ」と言つた。そして重右衛門とその少女との墓が今は寺に建てられて、村の者がをり/\香花を手向けるといふ事を自分に話した。 諸君、自然は竟に自然に帰つた!
「重右衛門の最後」田山花袋(青空文庫)
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