富岡先生(国木田独歩)のあらすじ・登場人物
時代に取り残された頑固者
- 心理
- 文字数
- 15,250字
- 読了目安
- 約30分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
国木田独歩が1902年(明治35年)に発表した短編小説。維新の風雲に会いながらもうまく時流に乗れず、男爵にも県知事にもなれずに、故郷に引っ込んで老いていく――そんな不遇のなかで、頑固で片意地な「変物」として生きる老人・富岡先生を描く。時代に取り残された一人の頑固者の姿を、独歩がユーモアと哀愁をこめて描いた人物小説である。
あらすじ
富岡先生は、その界隈で知らぬ者のない、名高い変わり者の老人である。維新の風雲に会いながらも、妙な機から立身の道をすべり落ち、男爵にも県知事にもなれずに、故郷に引っ込んで老い朽ちていく――そんな不遇のなかで、彼は頑固で、片意地で、尊大な「変物」として生きてきた。かつては志も才もありながら、世に容れられなかった不平と憤懣を胸に、富岡先生は周囲と衝突しながら、偏屈な晩年を送る。やがて十一月の末、富岡先生はこの世を去り、故郷はまた一人の名物男を失う。すると、東京の大新聞に、黒枠に囲まれた二十行ばかりの大きな死亡広告が出て、門人や親戚、友人の子爵の名がずらりと並んだ。それを見た多くの人は、いったい何者の広告かと怪しんだが、じつはこれこそ、不平満腹のまま死んだ富岡先生が、この世に放った最後の「一喝」だったのだ。せめてもの憂さ晴らしを知人に託して洩らしたその広告を見て、心ある同郷の者の二三は泣いた。時代に取り残された一人の頑固者の悲哀と誇りを、独歩がユーモアと哀愁をこめて描いた人物小説である。
登場人物
- 富岡先生 維新後に立身の機を逃し、故郷で老い朽ちていく頑固で尊大な「変物」の老人。死してなお大きな死亡広告で世に「一喝」を放つ
冒頭部(原文より)
何公爵の旧領地とばかり、詳細い事は言われない、侯伯子男の新華族を沢山出しただけに、同じく維新の風雲に会しながらも妙な機から雲梯をすべり落ちて、遂には男爵どころか県知事の椅子一にも有つき得ず、空しく故郷に引込んで老朽ちんとする人物も少くはない、こういう人物に限ぎって変物である、頑固である、片意地である、尊大である、富岡先生もその一人たるを失なわない。
「富岡先生」国木田独歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
さて富岡先生は十一月の末終にこの世を辞して何国は名物男一人を失なった。東京の大新聞二三種に黒枠二十行ばかりの大きな広告が出て門人高山文輔、親戚細川繁、友人野上子爵等の名がずらり並んだ。 同国の者はこの広告を見て「先生到頭死んだか」と直ぐ点頭いたが新聞を見る多数は、何人なればかくも大きな広告を出すのかと怪むものもあり、全く気のつかぬ者もあり。 然しこの広告が富岡先生のこの世に放った最後の一喝で不平満腹の先生がせめてもの遣悶を知人に由って洩らされたのである。心ある同国人の二三はこれを見て泣いた。
「富岡先生」国木田独歩(青空文庫)
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