政談十二社(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
滝の茶屋で聞く迷信の顛末
- ミステリ
- 心理
- 文字数
- 24,611字
- 読了目安
- 約49分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
末尾に1901年(明治34年)1月とある中編。日曜の郊外散歩で十二社の滝の茶店に立ち寄った大審院の判事が、茶店の婆さんの話から、近所の邸で起きた金の紛失と、疑いをかけられた女中、そして祈祷で羽振りを利かせる老人の素性を知ることになる。法律家の目と土地の迷信が向き合う、短編ミステリーのような構成で、判事の裁きが見どころ。青空文庫の注記のとおり、作中には今日では不適切とされる呼称が含まれるが、当時の表現のまま残されている。
あらすじ
日曜の郊外散歩で十二社の滝に立ち寄った大審院判事の小山由之助は、茶店の婆さんお幾に近所の話を尋ねる。お幾は、近くの沢井の邸に奉公するお米という娘が、五百円の紛失のために疑われ、病んで寝込んだと語る。背後には、甲州の山で修行したと称して戦争の祈祷などで評判を取り、島屋に居座る予言者の老人がいる。老人は枕元に現れて「罪のないことは知っている、だが心に済まぬことがあろう、私を頼め」と迫り、お米は気を病んでいた。話の途中、黄昏の滝の下道を、お米が錯乱した様子でお幾の店へ駆け込んでくる。続いて現れた老人がお米を責め立てると、判事は静かにお米の肩に手を置き、「盗もうとは思ったかもしれないが、心に罪があっても大事はない、私が許す」と諭す。老人は判事の威厳に気圧され、夫婦を呪う捨て台詞を残して池のほとりを走り去り、行方は知れない。迷信深い小山夫人は、その後も判事の無事を祈って鳥獣の肉と茶を断った。
登場人物
- 小山由之助 大審院の判事。日曜の散策で十二社の茶店に立ち寄る
- お幾 十二社の滝の茶店の婆さん。近所の事情に詳しい
- お米 沢井の邸の小間使。紛失事件の疑いをかけられて病んでいる
- 予言者の老人(仁右衛門) 祈祷で羽振りを利かせる、得体の知れない老人
冒頭部(原文より)
東京もはやここは多摩の里、郡の部に属する内藤新宿の町端に、近頃新開で土の色赤く、日当のいい冠木門から、目のふちほんのりと酔を帯びて、杖を小脇に、つかつかと出た一名の瀟洒たる人物がある。 黒の洋服で雪のような胸、手首、勿論靴で、どういう好みか目庇のつッと出た、鉄道の局員が被るような形なのを、前さがりに頂いた。これにてらてらと小春の日の光を遮って、やや蔭になった頬骨のちっと出た、目の大きい、鼻の隆い、背のすっくりした、人品に威厳のある年齢三十ばかりなるが、引緊った口に葉巻を啣えたままで、今門を出て、刈取ったあとの蕎麦畠に面した。
「政談十二社」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
迷信の深い小山夫人は、その後永く鳥獣の肉と茶断をして、判事の無事を祈っている。蓋し当時、夫婦を呪詛するという捨台辞を残して、我言かくのごとく違わじと、杖をもって土を打つこと三たびにして、薄月の十日の宵の、十二社の池の周囲を弓なりに、飛ぶかとばかり走り去った、予言者の鼻の行方がいまだに分らないからのことである。
「政談十二社」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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