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空知川の岸辺(国木田独歩)のあらすじ・登場人物

原始林の時雨に聞く自然の声

  • 心理

国木田独歩 1902年(明治35年)11月

文字数
9,617字
読了目安
約19分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 北海道

この作品について

国木田独歩が1895年(明治28年)に北海道へ渡り、空知川の沿岸で開墾の土地を選ぼうとした体験をもとにした短編で、1902年に発表された。札幌を発った「余」が、汽車と馬車を乗り継いで空知太、歌志内へと回り、沿岸を調査中の道庁の官吏を訪ねて原始林の奥へ分け入るまでを、漢語の多い文語調の一人称でたどる。車中で出会う山師風の男、見ず知らずの旅人に親身になる宿の主人、鉱夫町の夜の喧騒といった新開地の人々の姿と、霧や時雨に包まれた大森林の静けさとが交互に描かれる。人の力を寄せつけない北海道の自然を前にした青年の孤独と畏れが主題で、独歩の短編集『運命』にも収められている。

あらすじ

九月二十五日、「余」は札幌を発ち、空知川沿岸で土地の撰定を相談するため、沿岸を調査中の道庁の官吏を訪ねて単身汽車に乗る。石狩の野の荒涼とした光景に憂愁を深める余に、山師風の男が声をかけ、空知太の三浦屋という宿を教える。森林の中の小駅から馬車で空知太に着くと、三浦屋の主人は、空知川の岸伝いには道がないので歌志内へ回って山越えするほうがよいと勧める。雨の宿の二階で汽車を待つあいだ、余は東京の父母や友の人情の温かさを思い、理想の冷たさと自然の冷厳さを感じる。歌志内の宿では、主人が泊まり客の御料地係から官吏の居所を聞き出してくれ、十四歳の息子を案内につけてくれる。故郷の財産を弟たちに譲り、わずかな元手で北海道へ渡ってきたという主人の快活な生き方に、余は胸が開ける思いがする。夜、散歩に出た余は、鉱夫と酌婦たちの長屋から響く絃歌と罵声を聞き、人生の儚さを思う。翌日、宿の子と熊笹の山道を越え、森林を一直線に切り開いた新道沿いの掘立小屋で、道庁の井田らに会う。彼らは余の名と文章をすでに知っており、移民用の区画から六か所を選んでくれる。雑談ののち、余はひとり深林に入り、倒木に腰かけて時雨の音を聞くうち、社会も歴史もなく、人はただ自然の一呼吸の中に生存を託しているにすぎないという恐ろしい思いに沈む。宿の子に呼ばれて小屋に戻ると、井田は試しに一晩泊まってみてはどうかと勧める。その後、余は一家の事情で開墾を断念し、ついに再び北海道の地を踏むことはなかった。それでも空知川の沿岸を思うと、あの冷厳な自然が今も自分を引きつけるように感じるのである。

登場人物

冒頭部(原文より)

 余が札幌に滞在したのは五日間である、僅に五日間ではあるが余は此間に北海道を愛するの情を幾倍したのである。  我国本土の中でも中国の如き、人口稠密の地に成長して山をも野をも人間の力で平げ尽したる光景を見慣れたる余にありては、東北の原野すら既に我自然に帰依したるの情を動かしたるに、北海道を見るに及びて、如何で心躍らざらん、札幌は北海道の東京でありながら、満目の光景は殆ど余を魔し去つたのである。

「空知川の岸辺」国木田独歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

 其処で二人は一先づ小屋に帰ると、井田は、 「どうです今夜は試験のために一晩此処に泊つて御覧になつては。」  余は遂に再び北海道の地を踏まないで今日に到つた。たとひ一家の事情は余の開墾の目的を中止せしめたにせよ、余は今も尚ほ空知川の沿岸を思ふと、あの冷厳なる自然が、余を引つけるやうに感ずるのである。  何故だらう。

「空知川の岸辺」国木田独歩(青空文庫)

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