丹那山の怪(江見水蔭)のあらすじ・登場人物
夜ごと現れる高島田の娘
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 7,168字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 静岡県
この作品について
定火消の家臣・織部純之進は、初めての領地巡検で伊豆の丹那の里を訪れる。村中が歓待に励むなか、夜ごとに高島田の娘が泣く夢を見てうなされ、顔色の悪い謎の若者が駕籠のそばに現れては消える。人気の七変化役者、鸚鵡石、山番小屋の荒地と、山里に隠された事件の手がかりが少しずつつながっていく、怪談仕立ての短編。江戸時代の村と役人の駆け引きも描かれる。
あらすじ
江戸の定火消御役酒井内蔵助の家臣織部純之進は、領地巡検使として初めて伊豆の飛地を巡る。三島の宿で出迎えの庄屋らを十一名と聞くが、箱根では十二名に見えていた。丹那の旧家山田家では、村中の美しい娘が代わる代わる枕元に現れて籠絡を図るが、賄賂への警告を受けていた純之進は取り合わない。その夜、行燈の影に、黄八丈の高島田の娘が後ろ手に縛られたように泣く夢を見てうなされ、以後どの宿でも同じ夢が続く。巡検の間、顔色の土気色をした謎の若者が駕籠の脇に現れては消える。八島神社の板番付で七化役者尾上小紋三の芝居が先月かかったと聞くと、村人は顔色を変える。夢の娘は「明日は何もかもお分りになりましょう」と告げる。翌日、鸚鵡石で戯れに話しかけると、石から「人殺しがござりました。死骸は山番小屋の裏の荒地に埋めてござります。お露の敵を取ってください」という声が返る。駆けつけた荒地には、野猪が掘り返した跡から、夢と同じ姿の娘の死骸が出ていた。娘は椎茸畑の番人の娘お露で、村方は恋仲の小紋三が下手人と言い立てるが、証拠がなく詮議は打ち切られる。帰路の熱海の宿に、瀕死の小紋三がいた。小紋三は、お露と共に縛られ生き埋めにされたが、一人這い出して助かったと語り、純之進に感謝の手を合わせて息絶えた。
登場人物
- 織部純之進 酒井家の家臣の若い武士。初めて領地巡検使を務める
- 源八 純之進の若党
- お露 丹那小町と呼ばれた椎茸畑の番人の娘。夢に現れる高島田の娘
- 尾上小紋三 七化役者と呼ばれる旅役者。お露と思い合う
- 山田氏 丹那の旧家。純之進が泊まる屋敷の主人
冒頭部(原文より)
東海道は三島の宿。本陣世古六太夫の離れ座敷に、今宵の宿を定めたのは、定火消御役酒井内蔵助(五千石)の家臣、織部純之進という若武士で、それは酒井家の領地巡検使という役目を初めて承わり、飛地の伊豆は田方郡の諸村を見廻りの初旅というわけで、江戸からは若党一人と中間二人とを供に連れて来たのだが、箱根風越の伊豆相模の国境まで来ると、早くも領分諸村の庄屋、村役などが、大勢出迎えて、まるで殿様扱いにして了うのであった。 「出迎えの人数は?」と純之進は本陣に寛居ながら問うた。
「丹那山の怪」江見水蔭(青空文庫)
末尾部(原文より)
小紋三は丹那の鎮守で、忠臣蔵の早替わりを演じた夜、村の若者に捕えられて、お露と共に縛られたまま、山番小屋の後に生埋めにされたのであった。それが運よく地の底からもがき出て助かったのだという。その復讐を余所ながら巡検使に依頼したさに、気が張り切っていたのであったが、その目的を半ばは達したので、熱海の湯の宿へたどりつくと同時に、瀕死の状態になったのと知れた。公然名乗り出なかったは、相対死にの処罰に落されはせぬかと、それを恐れたというのであった。なお委しい事を語り得ずに、純之進に向って感謝の手を合せたまま、はかなき最期を遂げたのであった。
「丹那山の怪」江見水蔭(青空文庫)
原文を読む
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