二つの手紙(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
警察署長に宛てた二通
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 11,780字
- 読了目安
- 約24分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
芥川龍之介の初期の短編。警察署長に宛てた二通の手紙だけで構成され、手紙の書き手の語りを通して出来事が明らかになる書簡体の作品。書き手の大学教師は、自分と妻の分身(ドッペルゲンゲル)が現れたと主張し、西洋の文献の実例を長々と引いて、世間の中傷を訴える。語り手の「予」が冒頭で手紙を手に入れた経緯を断り、末尾で一部を省くと記す枠が、書き手の語りに不穏な距離を与えている。大正6年9月に「黒潮」へ発表。
あらすじ
第一の手紙。私立大学で倫理と英語を教える佐々木信一郎は、警察署長に宛てて、自分は正気だと繰り返し断ったうえで、ドッペルゲンゲル(分身)の実例を西洋の書物から次々に挙げる。彼は、昨年十一月の有楽座で、翌年一月の駿河台下で、そして二月十三日に帰宅した書斎で、自分と妻のふさ子の分身を三度見たと言う。最後の時、第二の自分たちは机に並んで彼の日記を読んでいた。彼は失神し、はじめて妻にすべてを打ち明ける。ところが世間は妻の貞操を疑って噂し、学生は黒板に戯画を描き、家の前を俚謡が通る。彼は署長に保護を求める。第二の手紙は、署長の怠慢のせいで妻が失踪したと責め、自分は学校を辞めて超自然の研究に専念すると宣言する。末尾には、刑事が持つ伝染病が接吻で伝わるというくだりがあり、そのあとは意味をなさない話が続くため省くという語り手の注で終わる。
登場人物
- 佐々木信一郎 手紙の書き手。私立大学の教師で、自分たち夫婦の分身を見たと主張する
- ふさ子 信一郎の妻。ヒステリーの素質があるとされる
- 警察署長 二通の手紙の宛先
冒頭部(原文より)
ある機会で、予は下に掲げる二つの手紙を手に入れた。一つは本年二月中旬、もう一つは三月上旬、――警察署長の許へ、郵税先払いで送られたものである。それをここへ掲げる理由は、手紙自身が説明するであろう。 第一の手紙 ――警察署長閣下、 先ず何よりも先に、閣下は私の正気だと云う事を御信じ下さい。これ私があらゆる神聖なものに誓って、保証致します。ですから、どうか私の精神に異常がないと云う事を、御信じ下さい。さもないと、私がこの手紙を閣下に差上げる事が、全く無意味になる惧があるのでございます。
「二つの手紙」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
閣下、私は一昨日、学校も辞職しました。今後の私は、全力を挙げて、超自然的現象の研究に従事するつもりでございます。閣下は恐らく、一般世人と同様、私のこの計画を冷笑なさる事でしょう。しかし一警察署長の身を以て、超自然的なる一切を否定するのは、恥ずべき事ではございますまいか。 閣下はまず、人間が如何に知る所の少ないかを御考えになるべきでしょう。たとえば、閣下の使用せられる刑事の中にさえ、閣下の夢にも御存知にならない伝染病を持っているものが、大勢居ります。殊にそれが、接吻によって、迅速に伝染すると云う事実は、私以外にほとんど一人も知っているものはございません。この例は、優に閣下の傲慢なる世界観を破壊するに足りましょう。…… × × × それから、先は、ほとんど意味をなさない、哲学じみた事が、長々と書いてある。これは不必要だから、ここには省く事にした。
「二つの手紙」芥川龍之介(青空文庫)
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