怪異黒姫おろし(江見水蔭)のあらすじ・登場人物
黒姫山に隠された佐渡の黄金
- 歴史
- 冒険
- 文字数
- 12,963字
- 読了目安
- 約26分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 長野県
- 新潟県
この作品について
信州黒姫山の裾野で、女のような美少年・滝之助が大男の武者修行者を鎌で殺し、朱塗の印籠を奪う。印籠を集めさせていたのは、土の室に住む謎の老人だった。徳川家康の金山奉行が隠したという佐渡の黄金の切図、父兄の仇を討つ復讐心、行列を一斉に盲目にする奇薬と、江戸初期の高田藩を舞台に、怪異と謀略を重ねた伝奇小説。薬草と印籠、鎌を操る少年の復讐劇でもある。
あらすじ
信州黒姫山の裾野で、越後関川宿の十四歳の美少年滝之助が、道場荒しの武者修行者を鎌で殺して朱塗の印籠を奪い、これで八十六個目と数える。印籠は、土の室に住む老人真堀洞斎に集めて渡していた。滝之助は、父は牢死、母は病死、兄は高田城に忍び込んで磔となり、高田藩主松平家を深く恨んでいる。洞斎は大坂落城の残党で堀江錦之丞といい、大久保石見守長安が佐渡の黄金を黒姫山麓に隠し、切図を腹心の者が印籠の二重底に分けて持った話を語る。三枚の切図が揃って隠し場所の一部が分かり、山神の祠の下から黄金を運び出すと、洞斎は喜びのあまり中気で倒れて世を去る。滝之助は大金持となり、洞斎から眠り薬や目潰しの秘薬を受け継ぎ、徳川家への復讐を誓う。そこへ高田殿(二代将軍秀忠の娘で、松平光長の母)の行列が北国街道を通る。滝之助は姿を変えて現れ、黒姫おろしの風に乗せた薬粉で供の二百人余りを一時に盲目にし、柏原の本陣へ里の娘に変装して入り込む。高田殿の背後から鎌を引こうとするが、名香に酔ったように鎌を取り落とし、振り向いた高田殿の守刀に刺されて死ぬ。巨万の黄金の行方は知れず、高田殿は、駆け込む若者を滝之助に見ては殺す乱行の噂を立てられたまま世を去った。
登場人物
- 滝之助 越後関川宿の十四歳の美少年。鎌の使い手で、松平家に復讐を誓う
- 真堀洞斎 黒姫山中の土の室に住む老人。大坂落城の残党で、佐渡の黄金を探す
- 高田殿 二代将軍秀忠の娘で松平光長の母。守刀の使い手
- 笹尾 高田殿付きの老女
- 大久保石見守長安 佐渡の黄金を隠したとされる金山奉行
冒頭部(原文より)
熊! 熊! 荒熊。それが人に化けたような乱髪、髯面、毛むくじゃらの手、扮装は黒紋付の垢染みたのに裁付袴。背中から腋の下へ斜に、渋段々染の風呂敷包を結び負いにして、朱鞘の大小ぶっ込みの他に、鉄扇まで腰に差した。諸国武者修業の豪傑とは誰の眼にも見えるのが、大鼻の頭に汗の珠を浮べながら、力一杯片膝下に捻伏せているのは、娘とも見える色白の、十六七の美少年、前髪既に弾け乱れて、地上の緑草に搦めるのであった。 「御免なされませ。お許し下さりませ」 悲し気にかつは苦し気に、はた唸き気味で詫びるのであった。
「怪異黒姫おろし」江見水蔭(青空文庫)
末尾部(原文より)
寛文十二年二月二十一日晩方、高田殿は逝去した。天徳寺に之を葬った。天和元年には、家断絶。世にいう越前家の本系は全く滅亡に及んだのだ。 滝之助の怨恨。地下に初めて晴れしや如何に。
「怪異黒姫おろし」江見水蔭(青空文庫)
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