註文帳(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
剃刀に宿る遊女の怨み
- 怪奇
- ミステリ
- 文字数
- 33,755字
- 読了目安
- 約1時間8分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
吉原を舞台にした怪異譚。1901年(明治34年)1月に発表された。廓の遊女たちの剃刀を預かる研屋には、二百も三百も剃刀が並んでいる。その一挺が持ち主の手にわたるとき、思わぬ惨事が起こる——見捨てられた遊女の怨みが、雪の夜に若い医学生をめぐって働きはじめる。剃刀という道具に情念を託した、鏡花の怪談の傑作。
あらすじ
吉原の裏町、剪刀と剃刀を打違えた看板を掲げた研屋に、五助という老爺がいる。廓の女たちの剃刀を二百三百と預かり、註文帳で管理してきた男である。だがその剃刀にまつわって、これまでいくたびか不吉な出来事が起きていた。雪の降る夜、四ツ谷から出向いた若い医学生・脇屋欽之助は、道に迷い、吹雪のなかを紅梅の寮へ導かれる。そこで彼を迎えたのはお若という女であった。かつて欽之助の血筋の者に見捨てられた遊女の霊が、その恋の因縁をたぐり寄せていたのである。研屋の五助が夢に見たのは、まさにその一部始終だった。
登場人物
- 五助 吉原の裏町で廓の女たちの剃刀を研ぐ老爺。註文帳をつけている
- お若 紅梅の寮の女。雪の夜、迷い込んだ欽之助を迎える
- 脇屋欽之助 やがて独逸へ留学しようという若い医学生
- 作平 五助と親しい男。物語の顛末を見届ける
冒頭部(原文より)
「おう寒いや、寒いや、こりゃべらぼうだ。」 と天窓をきちんと分けた風俗、その辺の若い者。双子の着物に白ッぽい唐桟の半纏、博多の帯、黒八丈の前垂、白綾子に菊唐草浮織の手巾を頸に巻いたが、向風に少々鼻下を赤うして、土手からたらたらと坂を下り、鉄漿溝というのについて揚屋町の裏の田町の方へ、紺足袋に日和下駄、後の減ったる代物。
「註文帳」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
その時まで残念だ、と呼吸の下でいって、いい続けて、時々歯噛をしていた少年は、耳を澄して、聞き果てると、しばらくうっとりして、早や死の色の宿ったる蒼白な面を和げながら、手真似をすること三度ばかり。 医学士が頷いたので、橘が筆をあてがうと、わずかに枕を擡げ、天地紅の半切に、薄墨のあわれ水茎の蹟、にじり書の端に、少し大きく、佳い手で脇屋欽之助つま、と記して安かに目を瞑った。 一座粛然。 作平は啜泣をしながら、 「おめでてえな。」 五助が握拳を膝に置いて、 「お若さん、喜びねえ。」
「註文帳」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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