半七捕物帳 山祝いの夜(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
箱根を越えた夜の旅籠の凶事
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 10,568字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編で、舞台を江戸の外に移した話。半七老人が天保版の道中図鑑を開きながら、文久二年五月、八丁堀の同心の妻を箱根湯本へ見舞いに行った道中の出来事を語る。子分の多吉を連れて小田原の旅籠に泊まった夜、宿の裏二階で駿府の商人二人が殺され、胴巻の金が奪われる。やがて同宿の若い旗本の家来が、主人が自分を手討ちにして腹を切ると言っていると、半七の部屋へ助けを求めて駆け込んでくる。箱根の関所越え、武家の供に紛れ込む手形なしの旅人、無事に山を越えた夜に祝う「山祝い」といった東海道の旅の習わしが、事件の背景として細かく描かれている。
あらすじ
文久二年五月、半七は子分の多吉を連れて箱根湯本へ向かう途中、小田原の旅籠松屋に泊まる。その夜、裏二階の駿府の商人二人が殺され、胴巻の金を奪われた。そこへ、多吉に借りのある与力の屋敷の中間七蔵が駆け込んできて、主人の小森市之助が自分を手討ちにして腹を切ると言うから助けてくれと泣きつく。駿府からの御用の帰り、七蔵は三島で喜三郎という手形のない男から金をもらい、臨時の供として関所を越えさせた。小田原では喜三郎の勧めで本陣を避けて松屋に泊まり、喜三郎のおごりで山祝いの酒を飲んだ。その夜に喜三郎が二人を殺して姿を消したため、若い市之助は関所の掟を破り、御用の道中で旅籠に泊まった責めを負おうとしていたのだった。半七は七蔵に路銀を与えて逃がし、市之助の部屋へ向かうが、蚊帳のなかには七蔵が血まみれで倒れ、市之助は押入れに隠れていた。うろつく女中お関を問い詰めると、市之助を慕って夜ふけに忍んできたとき、人を殺して戻った喜三郎と七蔵が何かささやき合うのを見たという。七蔵は喜三郎から口止めに十五両をもらって逃がしていたうえ、荷物を取りに戻った際に主人の胴巻まで盗もうとして手討ちにされたのだった。七蔵は明け方に死に、半七の知恵で罪はすべて七蔵にかぶせられ、市之助にお咎めはなかった。喜三郎は塀から落ちて足を挫き、湯本に隠れていたところを半七に捕らえられた。
登場人物
- 半七 神田の岡っ引。箱根へ見舞いに行く途中、小田原の旅籠で事件に出会う
- 多吉 半七の若い子分
- 小森市之助 二十歳の旗本の若侍。御用の道中の帰りに小田原に泊まる
- 七蔵 小森家の中間。博奕好きの道楽者
- 喜三郎 手形を持たない旅の男。七蔵に頼んで市之助の供に加わる
- お関 小田原の旅籠松屋の若い女中
冒頭部(原文より)
一 「その頃の箱根はまるで違いますよ」 半七老人は天保版の道中懐宝図鑑という小形の本をあけて見せた。 「御覧なさい。湯本でも宮の下でもみんな茅葺屋根に描いてあるでしょう。それを思うと、むかしと今とはすっかり変ったもんですよ。
「半七捕物帳 山祝いの夜」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「いや、それが不思議な因縁で、やっぱりわたくしの手にかかったんですよ。小田原の方はまずそれで済んで、わたくしは多吉をつれて箱根へ行くと、となりの温泉宿にとまっている奴がどうもおかしいと多吉が云うので、わたくしも気をつけてだんだん探ってみると、そいつは左足を挫いているんです。念のために小田原の宿の者をよんで透き視をさせると、このあいだの晩とまった客に相違ないというので、すぐに踏み込んで召し捕りました。宿屋の塀を乗り越して逃げるときに、踏みはずして、転げ落ちて、左の足を引っ挫いたので、遠くへ逃げることが出来なくなって、その治療ながら湯本に隠れていたんだそうです。これはわたくしの手柄でもなんでもない、不意の拾い物でした。江戸へ帰ってから、小森市之助という侍はわたくしのところへ礼ながら尋ねてくれましたから、その話をして聞かせると、大層よろこんでいました。なんでもその市之助という人は、御維新のときに、奥州の白河あたりで討死にをしたとかいうことですが、小田原の宿屋で冷たい腹を切るよりも、幾年か生きのびて花々しく討死にした方がましでしたろう」
「半七捕物帳 山祝いの夜」岡本綺堂(青空文庫)
原文を読む
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