三尺角(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
材木が化けたんだぜ、枝が出来た
- 幻想
- 恋愛
- 文字数
- 10,666字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
巨大な樟の角材を挽きつづける十七歳の木挽・與吉と、身を売られた娘お品、そして病みおとろえた恋人の柳。泉鏡花が、材木にまつわる奇瑞を軸に描いた哀切な物語。「材木が化けたんだぜ」と叫んで走る少年の姿が、この世ならぬ「福音」を運んでくる。
あらすじ
山には木樵唄、水には船唄、駅路には馬子の唄——人はそうやって心を慰め、労を休める。だがこの木挽の與吉だけは唄を謡わなかった。朝から晩まで、丈四間半、小口三尺まわりの樟の巨材の前に跪き、拝むように大鋸を上から挽きおろしつづけている。目鼻立ちの愛くるしい、罪のない丸顔の十七の少年である。與吉が身を寄せる家のかたわらでは、若い二人の悲しい恋が進んでいた。柳と呼ばれる若者は病みおとろえ、恋しい相手の娘は親のために身を他人に任せてしまっている。その手紙には、あの材木に枝葉がさかえるようなことがあったら夫婦にしてやろう——ありえないことのたとえとして、そう書かれていた。物語は、まわりの人々の欲と義理と、少年の無心とを行き来しながら、その「ありえないこと」へ向かって進んでゆく。そしてある日、與吉は狂気のように大声をあげて家々の前を走りまわる。「大變だ、大變だ、材木が化けたんだぜ、小屋の材木に葉が茂つた、大變だ、枝が出來た」。死のうとしている者の耳もとで、お品は必死に呼びかけた。「ねえ、ねえ、お聞きよ。……願は叶つたよ」。うっとりと目を開いた柳は、色の褪せた唇に微笑んで頷いた——與吉のような者でなければ、この福音を伝えることはできなかったのであろう。
登場人物
- 與吉 樟の巨材を挽く十七歳の木挽
- お品 病む柳に付き添う女
- 柳 病みおとろえた若者
冒頭部(原文より)
「…………」 山には木樵唄、水には船唄、驛路には馬子の唄、渠等はこれを以て心を慰め、勞を休め、我が身を忘れて屈託なく其業に服するので、恰も時計が動く毎にセコンドが鳴るやうなものであらう。
「三尺角」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「大變だ、大變だ、材木が化けたんだぜ、小屋の材木に葉が茂つた、大變だ、枝が出來た。」 と普請小屋、材木納屋の前で叫び足らず、與吉は狂氣の如く大聲で、此家の前をも呼はつて歩行いたのである。 「ね、ね、柳ちやん――柳ちやん――」 うつとりと、目を開いて、ハヤ色の褪せた唇に微笑むで頷いた。
「三尺角」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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