死後の恋(夢野久作)のあらすじ・登場人物
革命下のウラジオ、奇怪な告白
- ミステリ
- 怪奇
- 文字数
- 18,268字
- 読了目安
- 約37分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1928年10月、「新青年」に発表された夢野久作の短編。革命と戦争の混乱が続くウラジオストクで、古びた礼服の男が日本の軍人を呼び止める。レストランへ誘い、聞いてほしいと頼むのは、自分の運命を支配する「死後の恋」の話だった。男は相手に注文を勧め、身分を持ち出し、誰にも信じてもらえなかった苦しさを訴える。聞き手の返事は直接には記されず、男の言葉や笑い、言い直しの隙間から、その反応を想像することになる。この一方的な語りが、目の前で話しかけられているような近さと、話を信じてよいのかという不安を同時に作り出す。ロシアの革命を背景にした身の上話も、あくまで男自身の口を通して差し出される。奇怪な出来事の真相だけでなく、人が他人に自分の話を認めてほしいと願う、その切迫した声に引き込まれる作品。冒頭の笑い声から始まる夢野の話術が読みどころである。
あらすじ
浦塩の銀座通りで、風来坊のキチガイ紳士と呼ばれる男が日本の軍人を呼び止め、レストランに誘って身の上話を始める。モスクワ育ちの貴族の血を引くという男は、革命下に赤軍の兵士となり、美貌の戦友リヤトニコフと親しくなった。ある夜リヤトニコフは、ニコライ二世皇帝一家銃殺の一部始終を、まるでその場に居合わせたかのように語って聞かせ、handful……ひとつかみの宝石を男に見せる。数日後、部隊が全滅した戦場で、男はリヤトニコフの骸を見出す。その正体は女性——しかも、処刑を逃れたロマノフ王家の皇女その人ではなかったのか。死体の耳に嵌められていた宝石の耳飾りは、死んでのちに自分へ捧げられた恋の告白ではなかったのか。男はその「死後の恋」の証である宝石を軍人に差し出すが、軍人は話を信じず立ち去ろうとする。「ま……待って下さい」——男の叫びは、「アナスタシヤ内親王殿下……」の一言とともに途切れるのだった。
登場人物
- 私(キチガイ紳士) ウラジオストクをさまよう元赤軍兵。「死後の恋」に取り憑かれた語り手
- リヤトニコフ 私の戦友。ロマノフ王家の秘密を語る美貌の兵士
冒頭部(原文より)
ハハハハハ。イヤ……失礼しました。嘸かしビックリなすったでしょう。ハハア。乞食かとお思いになった……アハアハアハ。イヤ大笑いです。 あなたは近頃、この浦塩の町で評判になっている、風来坊のキチガイ紳士が、私だという事をチットモ御存じなかったのですね。
「死後の恋」夢野久作(青空文庫)
末尾部(原文より)
エッ……エエッ……私の話が本当らしくないって……。 ……あ……貴下もですか。……ああ……どうしよう……ま……待って下さい。逃げないで……ま……まだお話しすることが……ま、待って下さいッ……。 ああッ…… アナスタシヤ内親王殿下……。
「死後の恋」夢野久作(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。