アプリで読む

無料・登録不要

陰獣(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物

本格と変格が溶け合う迷宮

  • ミステリ
  • 怪奇

江戸川乱歩 1928年(昭和3年)8月 「新青年」

文字数
66,983字
読了目安
約2時間14分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

江戸川乱歩が1928年(昭和3)、雑誌『新青年』に連載した中編。探偵小説作家の「私」が、美しい人妻・小山田静子から、かつての恋人で覆面作家の大江春泥に脅迫されていると打ち明けられ、その正体を追って事件に深くかかわっていく。論理的な推理を重んじる「本格」と、情欲や嗜虐を描く「変格」の持ち味が一編のなかに同居し、乱歩の作風の両面を示す代表作に数えられる。

あらすじ

探偵小説家の「私」は、博物館で知り合った美しい人妻・小山田静子から、思いがけぬ相談を持ちかけられる。彼女には平田一郎という昔の恋人がおり、別れを恨んだ平田が「大江春泥」という覆面探偵作家となって、脅迫状で執拗に彼女の命を狙っているというのだ。春泥は変質的で陰惨な犯罪小説を書く謎めいた同業者で、「私」もその作風を意識していた。「私」は静子への恋心も手伝って、春泥=平田の正体と居所を突きとめようと調査に乗り出す。やがて静子の夫・小山田六郎が隅田川で水死体となって発見され、事件は現実の殺人へと発展する。「私」は残された証拠と推理から、春泥こそが小山田を殺した犯人だと組み立てていくが、その論理を突き詰めるほど、疑惑の矛先は思わぬ方向へ——実は春泥など初めから存在せず、すべては静子自身が仕組んだ狂言なのではないか、という戦慄すべき可能性へと向かっていく。「私」は自らの推理に確信を持てぬまま、静子への疑いを拭い去ることもできない。真相は最後まで闇に沈み、取りかえしのつかぬ恐ろしい疑惑だけが、日ごとに「私」の心を蝕んでいくのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

私は時々思うことがある。探偵小説家というものには二種類あって、一つの方は犯罪者型とでも云うか、犯罪ばかりに興味を持ち、仮令推理的な探偵小説を書くにしても、犯人の残虐な心理を思うさま書かないでは満足しない様な作家であるし、もう一つの方は探偵型とでも云うか、ごく健全で、理智的な探偵の径路にのみ興味を持ち、犯罪者の心理などには一向頓着しない様な作家であると。

「陰獣」江戸川乱歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

静子が悲惨な死をとげてから、もう半年にもなる。だが、平田一郎はいつまでたっても現われぬのだ。そして、私の取りかえしのつかぬ、恐ろしい疑惑は、日と共に、月と共に、深まって行くばかりである。

「陰獣」江戸川乱歩(青空文庫)

名文

そのお人好しで善人な私が、偶然にもこの事件に関係したというのが、抑も事の間違いであった。

江戸川乱歩『陰獣』の冒頭近く。探偵小説家の「私」が、自分は善人だと語りながら事件への関わりを悔やむ。不穏な語り出しが読者を引き込む。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品