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江川蘭子(連作探偵小説第一回)(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物

悪の華はここから咲く

  • ミステリ
  • 怪奇

江戸川乱歩 1930年(昭和5年)9月 「新青年」

文字数
11,154字
読了目安
約22分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

「新青年」が六人の作家をリレーさせた連作長編の、江戸川乱歩が書いた第一回。行動主義心理学の一節を引きながら、女妖・江川蘭子がいかにして悪に目覚めたかを、その赤ん坊のころの異常な環境から説き起こす。サーカスの空中曲芸で「支持の滅失」に慣れきった少女が、やがて殺人と密通の遊戯にそれ以上の昂奮を見出してゆく——十六歳で筆が擱かれ、続きは次の作家に手渡される。

あらすじ

ビヘヴィアリズムの新心理学によれば、人間の生涯の運命は遺伝よりも教育よりも、生後数か月の環境によってほとんど左右されるという。ならば女妖・江川蘭子の悪魔の生涯も、彼女が赤ちゃんであった時代の世にも奇異な環境のせいであったに違いない——乱歩はワットソンの説を引き、赤ん坊に恐怖反応を呼び起こす二つの刺戟、すなわち「高い音」と「支持の滅失」を紹介したうえで、蘭子の来歴を語りはじめる。……サーカスの空中で育った少女にとって、身体が宙に投げ出される「支持の滅失」は日常であった。どれほど誇張し、どんな高い所から飛び降りてみても、繰り返しているうちに刺戟ではなくなってくる。真似手のない危険な軽業にも飽き飽きして、もうこれで世の中の興味はおしまいかしらと生甲斐なく思いはじめた彼女の前に、パトロンの老人が現れる。そして蘭子は、人間の情事もまた軽業と同じように胸をわくわくさせる快楽の一種であることを悟った。だが、それ以上に彼女を変えたのは殺人遊戯と密通遊戯である。ソーダ水のコップへ粉薬を入れる時の何とも言えぬ罪の快感、老人がそれを飲みほす刹那の総毛立つような歓喜。それらはどんな空中の離れ業よりも彼女を昂奮させた。まだ十六歳の小娘の胸に、年とともにどんな悪の華が咲き乱れるのか——第一回はそこで断ち切られる。

登場人物

冒頭部(原文より)

赤き泉  ビヘヴィアリズムの新心理学によれば、人間生涯の運命というものは、遺伝よりも教育よりも、生後数ヶ月の環境によって殆ど左右されるものだそうである。で、女妖江川蘭子の悪魔の生涯も、恐らくは彼女の赤ちゃんであった時代の世にも奇異なる環境のせいであったに違いない。

「江川蘭子(連作探偵小説第一回)」江戸川乱歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

 だが、彼女はまだ老い先長い十六歳の小娘だ。年と共に、彼女の胸に咲き乱れるであろう悪の華が、如何に毒々しく美しいものであるか。年長じてどの様な妖婦となり、年老いて如何なる悪婆となるか。

「江川蘭子(連作探偵小説第一回)」江戸川乱歩(青空文庫)

原文を読む

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