松尾芭蕉の名文
松尾芭蕉の作品から、よく知られた一節を集めました。
10件
おくのほそ道
月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ馬の口とらえて老をむかふる物は、日〻旅にして旅を栖とす。
旅こそ人生だと言い切る『おくのほそ道』の書き出し。月日も年も旅人であり、舟や馬で一生を送る人は日々が旅だと語る、芭蕉の人生観を示す名文。
草の戸も住替る代ぞひなの家
旅立ちにあたり、住み慣れた草庵を人に譲るときの句。住人が替わる家にひな人形が飾られる——自分の旅立ちと世の移ろいを重ねた、旅の序の句。
行春や鳥啼魚の目は泪
千住で舟を降り、見送る人々と別れる旅立ちの句。去りゆく春を惜しみ、鳥は鳴き魚の目にも涙が浮かぶかのように詠む。
夏草や兵どもが夢の跡
平泉で詠まれた句。義経主従や藤原氏が栄華を誇った高館の跡は、いま夏草が茂るばかり。人の営みのはかなさを静かに伝える。
五月雨の降のこしてや光堂
平泉の中尊寺金色堂(光堂)での句。降り続く五月雨も、この堂だけは降り残したのだろうかと、数百年の風雪に耐えた輝きをたたえる。
閑さや岩にしみ入蝉の聲
山形の立石寺(山寺)で詠まれた句。蝉の声が岩にしみ入るように聞こえるほどの静けさを描き、芭蕉の句の中でも最も有名な一句。
五月雨をあつめて早し最上川
最上川の舟下りでの句。梅雨の雨を集めて勢いよく流れる大河の力強さを詠む。
荒海や佐渡によこたふ天河
越後路で詠まれた句。荒々しい日本海のかなたに佐渡島が横たわり、その上に天の川が大きく懸かる、壮大な夜空の情景。
蚤虱馬の尿する枕もと
国境の山中の家に泊まった夜の句。蚤や虱に悩まされ、枕もとで馬が尿をする——旅の苦労をおかしみで詠んだ一句。
蛤のふたみにわかれ行秋ぞ
旅の終わりの大垣で詠まれた句。蛤の蓋と身が分かれるように、親しい人々と別れて二見の浦へ旅立つ秋の惜別の情を詠む。