おくのほそ道(松尾芭蕉)のあらすじ・登場人物
月日は百代の過客にして
- 古典
- 文字数
- 22,760字
- 読了目安
- 約46分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
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この作品について
松尾芭蕉の俳諧紀行文。1689年(元禄2年)の春、門人の曾良を伴って江戸深川を発ち、奥羽・北陸の歌枕を巡って美濃の大垣にいたるまでの約150日、六百里(約2400キロ)におよぶ旅を、発句を織り込んだ簡潔で格調高い俳文でつづる。「月日は百代の過客にして」の序章をはじめ、「夏草や兵どもが夢の跡」(平泉)、「閑さや岩にしみ入蝉の声」(立石寺)、「五月雨をあつめて早し最上川」、「荒海や佐渡によこたふ天河」など、名句と名文の宝庫であり、中学校の国語教科書の定番でもある。芭蕉の没後、1702年(元禄15年)に刊行された。本書は、芭蕉が素龍に清書させた素龍清書本を底本とする杉浦正一郎の校註本で、曾良の「随行日記」と解説も収める。
あらすじ
人生そのものを旅と見る芭蕉は、住まいを人に譲り、1689年の春、門人の曾良とともに江戸深川を発つ。千住で見送りの人々と別れ、日光で東照宮を仰ぎ、那須野を越えて白河の関にいたり、みちのくへ入る。歌枕の松島では、幾重にも連なる島々の美しさをたたえ、曾良の句を記す。平泉では奥州藤原氏の栄華の跡に立ち、「夏草や兵どもが夢の跡」と人の世のはかなさをしのぶ。尿前の関を越えて出羽に入り、山寺・立石寺の静けさ、最上川の急流、出羽三山の霊気、雨にけむる象潟の景を句に詠む。越後の出雲崎では佐渡を望む荒海に天の川を仰ぎ、市振の宿では伊勢参りの遊女と一つ屋根の下に泊まり合わせる。金沢、那谷寺を経て山中温泉に至ると、腹を病んだ曾良が先に旅立ち、芭蕉は一人残される。敦賀では名月を待つが雨に降られ、門人たちの待つ大垣に着いた芭蕉は、旅の疲れも癒えぬまま、伊勢の遷宮を拝むためにふたたび舟に乗り、「蛤のふたみにわかれ行秋ぞ」の句で旅の記を結ぶ。
登場人物
- 芭蕉 旅に生きる俳人。「予」として旅をつづる
- 曾良 芭蕉の身の回りを助けて随行する門人
冒頭部(原文より)
月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ馬の口とらえて老をむかふる物は、日〻旅にして旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず海濱にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮春立る霞の空に白川の關こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取もの手につかず、もゝ引の破をつゞり笠の緒付かえて、三里に灸すゆるより松嶋の月先心にかゝりて、住る方は人に讓り杉風が別墅に移るに、 草の戸も住替る代ぞひなの家
「おくのほそ道」松尾芭蕉(青空文庫)
末尾部(原文より)
露通も此みなとまで出むかひて、みのゝ國へと伴ふ。駒にたすけられて大垣の庄に入ば、曾良も伊勢より來り合、越人も馬をとばせて如行が家に入集る。前川子・荊口父子、其外したしき人〻日夜とぶらひて、蘇生のものにあふがごとく、且悦び且いたはる。旅の物うさもいまだやまざるに、長月六日になれば、伊勢の迁宮おがまんと、又舟にのりて、 蛤のふたみにわかれ行秋ぞ
「おくのほそ道」松尾芭蕉(青空文庫)
名文
月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ馬の口とらえて老をむかふる物は、日〻旅にして旅を栖とす。
旅こそ人生だと言い切る『おくのほそ道』の書き出し。月日も年も旅人であり、舟や馬で一生を送る人は日々が旅だと語る、芭蕉の人生観を示す名文。
草の戸も住替る代ぞひなの家
旅立ちにあたり、住み慣れた草庵を人に譲るときの句。住人が替わる家にひな人形が飾られる——自分の旅立ちと世の移ろいを重ねた、旅の序の句。
行春や鳥啼魚の目は泪
千住で舟を降り、見送る人々と別れる旅立ちの句。去りゆく春を惜しみ、鳥は鳴き魚の目にも涙が浮かぶかのように詠む。
夏草や兵どもが夢の跡
平泉で詠まれた句。義経主従や藤原氏が栄華を誇った高館の跡は、いま夏草が茂るばかり。人の営みのはかなさを静かに伝える。
五月雨の降のこしてや光堂
平泉の中尊寺金色堂(光堂)での句。降り続く五月雨も、この堂だけは降り残したのだろうかと、数百年の風雪に耐えた輝きをたたえる。
閑さや岩にしみ入蝉の聲
山形の立石寺(山寺)で詠まれた句。蝉の声が岩にしみ入るように聞こえるほどの静けさを描き、芭蕉の句の中でも最も有名な一句。
五月雨をあつめて早し最上川
最上川の舟下りでの句。梅雨の雨を集めて勢いよく流れる大河の力強さを詠む。
荒海や佐渡によこたふ天河
越後路で詠まれた句。荒々しい日本海のかなたに佐渡島が横たわり、その上に天の川が大きく懸かる、壮大な夜空の情景。
蚤虱馬の尿する枕もと
国境の山中の家に泊まった夜の句。蚤や虱に悩まされ、枕もとで馬が尿をする——旅の苦労をおかしみで詠んだ一句。
蛤のふたみにわかれ行秋ぞ
旅の終わりの大垣で詠まれた句。蛤の蓋と身が分かれるように、親しい人々と別れて二見の浦へ旅立つ秋の惜別の情を詠む。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。