小栗虫太郎の名文

小栗虫太郎の作品から、よく知られた一節を集めました。

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黒死館殺人事件

聖アレキセイ寺院の殺人事件に法水が解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りの噂が立ちはじめた十日目のこと、その日から捜査関係の主脳部は、ラザレフ殺害者の追求を放棄しなければならなくなった。と云うのは、四百年の昔から纏綿としていて、臼杵耶蘇会神学林以来の神聖家族と云われる降矢木の館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の彷徨が始まったからであった。

小栗虫太郎『黒死館殺人事件』の書き出し。聖アレキセイ寺院の事件に続いて、降矢木家の館「黒死館」に毒殺者が現れる。衒学と怪奇の大作の幕開け。

あの一句は、ゲーテの『ファウスト』の中で、尨犬に化けたメフィストの魔力を破ろうと、あの全能博士が唱える呪文の中にある、勿論その時代を風靡した加勒底亜五芒星術の一文で、火精・水精・風精・地精の四妖に呼び掛けているんだ。

現場に残された「水精よ蜿くれ」の一句を、探偵法水麟太郎が読み解く場面。ファウストの呪文が連続殺人の鍵となる、黒死館らしい衒学の極み。

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小栗虫太郎