清少納言の名文
清少納言の作品から、よく知られた一節を集めました。
8件
枕草子
春は曙、やうやう白くなりゆく山ぎはすこしあかりて紫だちたる雲の細くたなびきたる。
「春はあけぼの」の段。夜が明けゆく空の色の変化を一筆で捉える。日本人の季節感を象徴する、枕草子の最も有名な書き出し。
夏はよる、月のころはさらなり、闇もなほ蛍飛びちがひたる、雨などの降るさへをかし。
四季を述べた冒頭の「夏」。月夜の明るさも闇の中を飛び交う蛍も、雨の夜さえも趣深いとする。
秋は夕暮、夕日はなやかにさして、山ぎはいと近くなりたるに、鳥のねどころへゆくとて三つ四つ二つなど飛びゆくさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるがいとちひさく見ゆるいとをかし。日入りはてゝ風のおと虫のねなどいとあはれなり。
冒頭の「秋」。山の端に沈む夕日、ねぐらへ急ぐ鳥、日没後の風の音や虫の音と、視覚から聴覚へ移る秋の情趣。
冬は雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜などのいと白く、又さらでもいと寒き、火などいそぎおこして炭もてわたるもいとつきづきし。ひるになりてぬるくゆるびもてゆけば、すびつ火桶の火も白き灰がちになりぬるはわろし。
冒頭の「冬」。雪や霜の朝の厳しい寒さと、炭を運ぶ火桶の風景を「をかし」と見、昼になって火が灰がちになるのは興ざめだと言う、清少納言らしい率直さ。
ふりに書きたるちごの顔。雀の子のねずなきするにをどりくる。又べになどつけてすゑたればおや雀の虫などもて来てくゝむるもいとらうたし。三つばかりなるちごの急ぎて這ひくる道に、いとちひさき塵などのありけるをめざとに見つけて、いとをかしげなるおよびにとらへておとななどに見せたるいと美くし。あまにそぎたる児の目に髪のおほひたるを掻きはやらで、うちかたぶきて物など見るいとうつくし。たすきがけにゆひたる腰のかみの白うをかしげなるも見るにうつくし。
「うつくしきもの」の段の前半。雀の子や、這ってきた幼子が小さな塵を指でつまむ様子など、小さなものへのまなざしが光る。
昼ほゆる犬、春の網代、三四月の紅梅のきぬ、ちごのなくなりたる産屋、火おこさぬ火桶すびつ、牛にくみたる牛飼。
「すさまじきもの」の段の書き出し。昼に吠える犬、春の網代、火の入っていない火桶など、時機を外して興ざめなものを並べる。
しうとに誉めらるゝむこ、又しうとめに思はるゝ嫁の君、物よく抜くるしろがねの毛抜、しう譏らぬ人のずさ、つゆのくせかたはなくてかたち心ざまも勝れて、世にある程いさゝかのきずなき人。
「ありがたきもの」の段の書き出し。姑に思われる嫁、よく抜ける銀の毛抜きなど、めったにないものを挙げ、人間関係の機微へ筆が進む。
香炉峰の雪はいかならむ」と仰せられければ、御格子あげさせて、御簾高く巻き上げたれば、笑はせたまふ。人々も皆さる事は知り、歌などにさへうたへど、思ひこそよらざりつれ。
中宮定子の問いかけに、白居易の詩句を踏まえて御簾を高く上げてみせた機知の場面。清少納言の才気を伝える逸話として名高い。