下村湖人の名文
下村湖人の作品から、よく知られた一節を集めました。
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次郎物語
愛されるものにも、愛されないものにも、時間だけは平等に流れてゆく。
下村湖人『次郎物語』第一部の一節。家族の愛から遠い次郎の境遇を見つめる語り手の、静かで公平なまなざしがにじむ。
「あたしは、乳母やよりももっと遠いところから、きっと次郎を見ててあげるよ。だから、……だから、腹が立ったり、……悲しかったりしても……」
次郎の母が臨終の数日前に残した言葉。母の死後も、この言葉が次郎の心を力強く支え続ける。
「芦の花って真白でしょう。その真白な花が一面に咲いている中に真白な鳥が舞い込んだっていうのですわ。」
下村湖人『次郎物語』第三部(1944年)で、朝倉先生の奥さんが「白鳥芦花に入る」の手がかりを次郎に教える言葉。白い鳥が白い花に溶け込み、それでいて花をそよがせる。白鳥会の精神を一枚の絵で示している。
彼は、「運命」によって影を与えられ、「愛」によって不死の水を注がれ、そして「永遠」に向かって流れて行く人生の相を、彼の幼ない智恵の中に、そろそろと刻みはじめていたのである。
第一部の結びの一文。「運命」「愛」「永遠」という三つの言葉で、少年次郎の心の成長を総括する。