ツルゲーネフの名文
ツルゲーネフの作品から、よく知られた一節を集めました。
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はつ恋
その頃わたしは十六歳だった。一八三三年の夏のことである。
中年の語り手が少年時代の初恋を語り起こす冒頭。モスクワ郊外の別荘で過ごした夏の思い出が、ここから静かに開かれる。
ああ、青春よ! 青春よ! お前はどんなことにも、かかずらわない。お前はまるで、この宇宙のあらゆる財宝を、ひとり占めにしているかのようだ。憂愁でさえ、お前にとっては慰めだ。悲哀でさえ、お前には似つかわしい。
終盤、語り手が過ぎ去った若き日を振り返る詠嘆。ツルゲーネフらしい抒情で、青春のおごりと輝きをともに惜しむ。
『わが息子よ』と、父は書いていた。――『女の愛を恐れよ。かの幸を、かの毒を恐れよ』……
亡くなる日の朝、父が「わたし」に宛てて書きかけた手紙。息子と同じ女性を愛した父の言葉が、初恋の苦さを締めくくる。
あいびき
秋九月中旬というころ、一日自分がさる樺の林の中に座していたことがあッた。
ツルゲーネフ『猟人日記』の一篇を二葉亭四迷が訳した本文の書き出し。自然の移ろいを細やかに写した言文一致の訳文は、国木田独歩『武蔵野』をはじめ、明治の文学者の自然描写に大きな影響を与えた。