内田魯庵の名文
内田魯庵の作品から、よく知られた一節を集めました。
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二葉亭四迷の一生
少くも『浮雲』の作者は二十年、時代に先んじた先駈者であるといわねばなるまい。
内田魯庵が『浮雲』の歴史的意義を評した一文。未成品と認めつつ、言文一致の小説文体を切り開いた二葉亭の先駆性を言い切る。
文学の立場は各々違ってるから、一概に美妙や紅葉の取った道を間違ってると軽断するではないが、二葉亭にいわしむれば生活の血の滲まない製作は文学を冒涜する罪悪であったのだ。
筆で暮らしを立てる道を選べなかった二葉亭の文学観を、魯庵が要約した一節。真剣勝負としての文学に苦しんだ姿が浮かぶ。
文人乎、非文人乎、英雄乎、俗人乎、二葉亭は終にその全人格を他にも自分にも明白に示さないで、あたかも彗星の如く不思議の光芒を残しつつ倏忽として去ってしまった。渠は小説家でなかったかも知れないが、渠れ自身の一生は実に小説であった。
評伝『二葉亭四迷の一生』の結び。文学に収まりきらなかった友の生涯を、「一生は実に小説であった」と言い当てる。
鴎外博士の追憶
墓碑なら書くよ、生きてる中は険呑だから書かんが、死んだら君の墓石へ書いてやろう、
篆書の揮毫を頼んだ魯庵に、鴎外が笑って返した言葉。これが二人の最後の対話となり、先に逝った鴎外を偲ぶ追憶に深い余韻を残す。