則天去私とは

分類
その他
読み
そくてんきょし

「天に則り私を去る」の意で、夏目漱石が晩年に理想とした境地を表すとされる語。小さな自我へのこだわりを捨て、より大きな自然の道理に身をゆだねる態度と説明されることが多い。漱石の造語とされるが、小説や評論の本文には現れず、漱石自身がこの語を説明した文章も残っていない。『大正六年文章日記』の扉に漱石の揮毫が掲げられたことが知られるほか、最晩年の木曜会で門下生にこの語を語ったことが、弟子たちの回想によって伝えられている。このため、その意味は受け取る側の解釈に大きく委ねられてきた。小宮豊隆ら門下の一部は、これを漱石が到達した宗教的な悟りの境地として重んじ、大正5年(1916年)に連載中のまま絶筆となった『明暗』をその実践とみる見方も広まった。一方で、弟子による神格化だとする批判や、作家として人物を突き放して描く創作上の態度を言ったものとみる説もある。漱石が『明暗』の執筆と並行して作っていた漢詩とあわせて考えるべきだとする指摘もあり、固定した教えとしてではなく、晩年の漱石の心境を示す言葉として読まれている。

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