長谷川伸の名文

長谷川伸の作品から、よく知られた一節を集めました。

3件

瞼の母

俺あ、こう上下の瞼を合せ、じいッと考えてりゃあ、逢わねえ昔のおッかさんの俤が出てくるんだ――それでいいんだ。(歩く)逢いたくなったら俺あ、眼をつぶろうよ。

生き別れた母に会いながら名乗れず、突き放して去る忠太郎の独白。会わずとも瞼の裏に母の俤を見る、という題名の由来となる台詞。

愚痴をいうじゃねえけれど、夫婦は二世、親子は一世と、だれが云い出したか、身に沁みらあ。

母に「他人」と拒まれた番場の忠太郎が、別れ際にもらす台詞。親子の縁の薄さを、世に言う一句に託して嘆く。

一本刀土俵入 二幕五場

ああお蔦さん、棒ッ切れを振り廻してする茂兵衛の、これが、十年前に、櫛、簪、巾着ぐるみ、意見を貰った姐さんに、せめて、見て貰う駒形の、しがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす。

十年前に恩を受けた酌婦お蔦への返礼に、旅の茂兵衛が見せる土俵入り。長谷川伸の股旅物を代表する、情の詰まった大詰の名台詞。

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長谷川伸