一本刀土俵入 二幕五場(長谷川伸)のあらすじ・登場人物
一文無しの取的と酌婦の情け
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 24,202字
- 読了目安
- 約48分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 茨城県
- 千葉県
この作品について
長谷川伸が1931年(昭和6年)、「中央公論」に発表した二幕五場の戯曲。同年に歌舞伎で初演されて評判を呼び、作者の代表作の一つとなった。取手の宿場の茶屋旅籠を舞台に、親方に見放された取的(下っ端の力士)の駒形茂兵衛と、二階から彼を見下ろす酌婦お蔦との出会いを序幕に置き、十年後の布施の川べりを大詰とする。利根川をはさむ常陸と下総の宿場や渡し場の風景、酌婦や船頭、博徒たちのにぎやかなやりとりのなかで、茂兵衛の朴訥な言葉づかいとお蔦の気っぷのよさが際立ち、人の情けが十年の歳月を越えて受け継がれていくさまが描かれる。歌舞伎や新国劇の人気演目となって映画化も重ねられた。
あらすじ
秋の日の午後、水戸街道の取手の宿。親方に見込みがないと突き放された取的の駒形茂兵衛は、一文無しで腹をすかせ、江戸へ戻って横綱になる夢を抱いたまま、土地の荒くれ者にからまれていた。茶屋旅籠・安孫子屋の二階からそれを見ていた酌婦のお蔦は、茂兵衛の身の上を聞いて哀れに思い、櫛や簪、巾着ぐるみの有り金を投げ与え、立派な横綱になって土俵入りを見せてほしいと励ます。茂兵衛は恩を胸に利根の渡しを越えていく。それから十年後、利根川沿いの布施の川べりに、相撲取りになりそこねて渡世人となった茂兵衛が現れ、お蔦の行方を探し歩く。お蔦は、いかさま博打で追われる身の船印彫りの辰三郎と所帯を持ち、娘のお君と貧しく暮らしていた。茂兵衛は親分の儀十一家に追い詰められた辰三郎一家の窮地を知り、相撲で鍛えた技で子分たちを次々と叩き伏せる。逃げてゆく一家を見送りながら、茂兵衛は、これが十年前に意見をもらった姐さんに見てもらう、しがない姿の横綱の土俵入りだと告げる。
登場人物
- 駒形茂兵衛 横綱を夢見る取的。十年後は渡世人となって、恩人のお蔦を探す
- お蔦 取手の安孫子屋の酌婦。一文無しの茂兵衛に有り金を与えて励ます
- 船印彫辰三郎 お蔦の夫。いかさま博打のために追われる
- お君 お蔦と辰三郎の娘
- 波一里儀十 布施の博徒の親分。辰三郎を追い詰める
冒頭部(原文より)
常陸の国取手は水戸街道の宿場で利根を越えると下総の国。渡しはそこの近くにある。 取手の宿場街の裏通りにある茶屋旅籠で安孫子屋の店頭は、今が閑散な潮時外れである。それは秋の日の午後のこと。
「一本刀土俵入 二幕五場」長谷川伸(青空文庫)
末尾部(原文より)
茂兵衛 お行きなさんせ早いところで。仲よく丈夫でおくらしなさんせ。(辰三郎夫婦が見返りながら去って行くのを見送り)ああお蔦さん、棒ッ切れを振り廻してする茂兵衛の、これが、十年前に、櫛、簪、巾着ぐるみ、意見を貰った姐さんに、せめて、見て貰う駒形の、しがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす。(入口から家の中へはいる)
「一本刀土俵入 二幕五場」長谷川伸(青空文庫)
名文
ああお蔦さん、棒ッ切れを振り廻してする茂兵衛の、これが、十年前に、櫛、簪、巾着ぐるみ、意見を貰った姐さんに、せめて、見て貰う駒形の、しがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす。
十年前に恩を受けた酌婦お蔦への返礼に、旅の茂兵衛が見せる土俵入り。長谷川伸の股旅物を代表する、情の詰まった大詰の名台詞。
原文を読む
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