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治郎吉格子(吉川英治)のあらすじ・登場人物

義賊鼠小僧の情け深い一幕

  • 歴史
  • 心理

吉川英治 1931年(昭和6年)10月 「週刊朝日」

文字数
20,114字
読了目安
約40分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 大阪府

この作品について

吉川英治が1931年(昭和6年)、「週刊朝日」秋季特別号に発表した短編時代小説。江戸を荒らして三都に人相書の回った義賊・鼠小僧治郎吉を主人公に、上方へ落ちのびた彼が、薄幸の娘お喜乃の身の上に関わってゆく人情の一幕を描く。気まぐれで見栄坊、しかし弱い者への情に篤い治郎吉の造形が光る、洒脱な一篇である。

あらすじ

江戸を荒らして三都に人相書の回った義賊・鼠小僧治郎吉は、有馬の湯治場に二月ほど身をひそめたのち、上方へ出る。彼に惚れた湯女お仙がつきまとうが、治郎吉はつれない。お仙の腹ちがいの兄で髪結床「自雷也床」を営む小悪党・仁吉は、妹を女郎に売り飛ばそうとする一方、清らかで気品のある元結売りの娘お喜乃を、悪徳与力・重松左次兵衛の妾に世話しようと画策していた。お喜乃の父は、もと旗本の用人。皮肉にも、その父を没落させた公金千両の盗人こそ、ほかならぬ治郎吉自身であった。お喜乃に心を惹かれた治郎吉は、そっと金を届けて助けようとするが、お喜乃の父は賊に斬られて命を落とす。やがて仁吉と与力は、月見の舟にお喜乃を誘い出し、無理やり意に従わせようとする。船頭に化けていた治郎吉はお喜乃を救い、仁吉を斬り捨てる。だが彼は「気まぐれな自分は、いつまた飽きるか知れぬ」と、お喜乃を我がものにはせず、父の墓前に千両を返すことを心に誓って姿を消す。御用提灯の群れが迫るなか、治郎吉のすがたはいずこともなく消えていた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 湯槽のなかに眼を閉じていても、世間のうごきはおよそわかる――。ふた月も病人を装って辛抱していたこの有馬の湯治場から、世間の陽あたりへ歩き出せば、すぐにあしのつくというくらいな寸法は、なにも、気がつかずに立った治郎吉ではなかった。

「治郎吉格子」吉川英治(青空文庫)

末尾部(原文より)

 そういいながら、お仙は、治郎吉に解かれた縄をふり払って、物干しから、屋根へ、怖さも忘れて這い出したけれど、裏口はもう真っ赤に染まるほど、御用提灯が埋もっていた。 「あっ、治郎吉さん」  と、座敷を駈けぬけて、表窓を開けてみたけれど、治郎吉のすがたは、そこにも見えなかった。  太左衛門橋も、河の中も、ただ灯である、軽装した捕方の影ばかりである。

「治郎吉格子」吉川英治(青空文庫)

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