三つの窓(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
戦闘艦の三つの光景
- 心理
- 歴史
- 文字数
- 6,812字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
この作品について
芥川龍之介の晩年の短編。一等戦闘艦「××」を主人公とする海軍もので、「鼠」「三人」「一等戦闘艦××」の三つの章からなる。それぞれに軍艦の内側と外側から見た別の光景を並べ、最後は老いたドック入りの艦の姿で結ぶ。末尾に昭和2年6月10日の日付があり、7月に「改造」へ発表された。
あらすじ
第一章「鼠」では、横須賀に入港した戦闘艦で、鼠を一匹とった者に上陸を許すという命令が出る。甲板士官のA中尉は、小鼠を持ってきた水兵Sが妻の差し入れた菓子折に鼠を入れて持ち込んだと知り、上陸を許さず、頬を殴る。ところがその後、Sにクラッカーを買いに行かせ、涙を流す彼を見る。数日後、Sの妻から詫びの手紙が届き、中尉は妙な寂しさを覚える。第二章「三人」では、海戦のあと、K中尉が戦死した若い楽手、海に落ちて助からなかった水兵、罰を受けて行方不明になった下士の三つの死を思い出す。第三章では、ドックの中で老いた戦闘艦が、同じ港で爆発して沈んだ若い友だちの艦を見送り、自分の運命を待ちつづける。
登場人物
- A中尉 鼠狩りで水兵Sを問い質す甲板士官
- S 鼠を持ち込んで上陸を願う水兵
- K中尉 海戦の後に三つの死を思う士官
- Y中尉 A中尉の友人。妻帯者
冒頭部(原文より)
一等戦闘艦××の横須賀軍港へはいったのは六月にはいったばかりだった。軍港を囲んだ山々はどれも皆雨のために煙っていた。元来軍艦は碇泊したが最後、鼠の殖えなかったと云うためしはない。――××もまた同じことだった。長雨の中に旗を垂らした二万噸の××の甲板の下にも鼠はいつか手箱だの衣嚢だのにもつきはじめた。 こう云う鼠を狩るために鼠を一匹捉えたものには一日の上陸を許すと云う副長の命令の下ったのは碇泊後三日にならない頃だった。勿論水兵や機関兵はこの命令の下った時から熱心に鼠狩りにとりかかった。鼠は彼等の力のために見る見る数を減らして行った。従って彼等は一匹の鼠も争わない訣には行かなかった。
「三つの窓」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
それから三四日たった後、二万噸の××は両舷の水圧を失っていたためにだんだん甲板も乾割れはじめた。この容子を見た職工たちはいよいよ修繕工事を急ぎ出した。が、××はいつの間にか彼自身を見離していた。△△はまだ年も若いのに目の前の海に沈んでしまった。こう云う△△の運命を思えば、彼の生涯は少くとも喜びや苦しみを嘗め尽していた。××はもう昔になったある海戦の時を思い出した。それは旗もずたずたに裂ければ、マストさえ折れてしまう海戦だった。…… 二万噸の××は白じらと乾いたドックの中に高だかと艦首を擡げていた。彼の前には巡洋艦や駆逐艇が何隻も出入していた。それから新らしい潜航艇や水上飛行機も見えないことはなかった。しかしそれ等は××には果なさを感じさせるばかりだった。××は照ったり曇ったりする横須賀軍港を見渡したまま、じっと彼の運命を待ちつづけていた。その間もやはりおのずから甲板のじりじり反り返って来るのに幾分か不安を感じながら。……
「三つの窓」芥川龍之介(青空文庫)
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