沓掛時次郎 三幕十場(長谷川伸)のあらすじ・登場人物
斬った男の妻子を連れた旅
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 21,739字
- 読了目安
- 約43分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 埼玉県
この作品について
長谷川伸が1928年(昭和3年)、雑誌「騒人」に発表した三幕十場の戯曲。渡世の義理から見知らぬ男を斬った旅の博徒・沓掛時次郎が、その男の妻子を連れて旅をすることになる物語で、のちに股旅物と呼ばれる作品群の先駆けとされる。後ろ盾を失った博徒・六ツ田の三蔵の家が襲われる夜の場面に始まり、中山道熊谷宿の裏通りと安宿へと舞台を移す。義理と人情のはざまで揺れる渡世人の心を、口数の少ない台詞のなかに描き出す。
あらすじ
ある秋の夜、親分を失い、子分も散って身一つで一家を名乗る博徒・六ツ田の三蔵は、反対派の襲撃を逃れようと、妻のおきぬとともに荷造りを急いでいた。そこへ一宿一飯の義理で反対派に加わった信州の旅の博徒・沓掛の時次郎が現れ、恩も怨みもない三蔵と一騎打ちをして深手を負わせる。だが、女房子供まで斬ろうとする仲間に我慢がならず、時次郎は逆に彼らを追い払う。息を引き取る三蔵から妻子を頼まれた時次郎は、おきぬと幼い太郎吉を連れて追手を逃れ、旅に出る。中山道熊谷宿の安宿に身を寄せた三人は、身重のおきぬをいたわりながら、時次郎の唄う追分節で門付けをして稼ぐ貧しい暮らしを続ける。時次郎とおきぬは互いにひかれ合いながらも、夫を斬った男と斬られた男の妻という間柄から、その思いを口に出せない。おきぬの産み月が近づき、薬代に困った時次郎は、金のために宿場の博徒・八丁徳の喧嘩の助っ人を引き受ける。しかし時次郎が喧嘩場から戻ったとき、おきぬはすでにこの世を去っていた。時次郎は骨箱を抱えた太郎吉の手を引き、追ってきた敵も斬らずに放して、親切にしてくれた宿の夫婦に別れを告げて旅立っていく。
登場人物
- 沓掛の時次郎 旅の博徒。一宿一飯の義理で三蔵を斬り、その妻子を連れて旅をする
- 六ツ田の三蔵 後ろ盾の親分を失った博徒。反対派に襲われる
- おきぬ 三蔵の女房。夫の死後、時次郎に伴われて旅をする
- 太郎吉 三蔵とおきぬの幼い息子
- 八丁徳 熊谷宿の博徒の親分。喧嘩の助っ人を求める
- 安兵衛・おろく 熊谷宿の安宿の夫婦。時次郎たちに親切にする
冒頭部(原文より)
三蔵はもう三、四年もすれば親分から跡目に直らせて貰える筈だった男だ。しかし頼む力の親分は召捕りになり、どうで遠島は免かれまいと立つ噂に、身内は残らず散って、残るは三蔵ただ一人きりである。それでも三蔵は、親分に義理を立て、子分は皆無、身一つで、中ノ川一家を名乗っている。当然の結果、反対派の親分側から、圧迫が加えられ、今夜がその最後であった。
「沓掛時次郎 三幕十場」長谷川伸(青空文庫)
末尾部(原文より)
時次郎 放せッ。(太郎吉の頭を終に撫ぜる)斬った処でどうなるものか。心配するな坊や。それよ。(刀を投げ返す) 太郎吉 (骨箱を抱え)小父さん、行こうよ。 時次郎 お、行こうね。坊や、深い馴染の宿はあすこだ。 太郎吉 おじいさんお婆さん、左様なら。 時次郎 仕合せで長生きをしておくんなさい。(二人に)手前達、命はたった一ツ、大事につかえ。な、な。(歩く)
「沓掛時次郎 三幕十場」長谷川伸(青空文庫)
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