松のや露八(吉川英治)のあらすじ・登場人物
旧幕臣が幇間に身をやつして
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 125,763字
- 読了目安
- 約4時間12分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
吉川英治が1934年(昭和9年)、「サンデー毎日」に連載した長編小説。幕末、一ツ橋家に仕える生真面目な剣術家・土肥庄次郎が、幕府の瓦解とともにすべてを失い、やがて吉原の幇間「松廼家露八」として生きるにいたる数奇な生涯を描く。実在の人物・松廼家露八をモデルに、時代の激変に翻弄されながらも旧幕臣の意地と人情を失わずに道化に生きた一人の男の哀歓を、明治の世まで見つめた異色作である。
あらすじ
幕末の文久元年、一ツ橋家(徳川慶喜)の入江道場に、鈍重だが真面目一途な剣術家・土肥庄次郎がいた。近習番頭取の長男で、団栗まなこの巨漢、遊蕩も知らぬこの朴念仁は、のちの渋沢栄一とも同じ道場に机を並べていた。だが世は幕末の激動へと突き進む。幕府の瓦解とともに、旧幕臣・庄次郎の人生は根こそぎ覆され、彼はよるべなく世間の底へと転落してゆく。武士としての誇りと生真面目さを持てあましながら流転を重ねた末、庄次郎がたどりついたのは、白粉の香る吉原の里であった。彼は「松廼家露八」と名を変え、太鼓持ち(幇間)として、旧幕臣の意地を胸の底に秘めたまま、酒席の道化に身をやつして生きる。移りゆく明治の世に、かつての大家が新興の財閥に呑まれて没落してゆくのを眺めながら、老いた露八は、過ぎ去った女たちの面影のなかに、荒んだ生涯にただ一つ残る清らかなものを見出すのだった。
登場人物
- 土肥庄次郎(松廼家露八) 一ツ橋家に仕えた生真面目な剣術家。幕府瓦解後、吉原の幇間となる主人公
- 渋沢栄一 庄次郎と同じ道場に学んだ客分の青年。のちの実業家
- 入江達三郎 一ツ橋家の剣術師範
- お喜代 露八が生涯に清らかな面影を残す女性
冒頭部(原文より)
「こんどの冬の陣には、誰が、初伝を取るか」 「夏の陣には、俺が日記方(目録取り)に昇格ってみせる」 などと門人たちは、その日を目あてに精錬していた。暮の十二月二十五日と、中元の七月十日とが入江道場の年二回の表彰日なので、修業の半期半期を、門人たちは、夏の陣、冬の陣、と呼びわけて免許取りの早さばかり競っていた。
「松のや露八」吉川英治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「よかった! ……俺の生涯にたった一つ、きれいなものがこれで残る……。三人の姉妹から、やっぱり、俺は、拾うものを拾った」 茶屋、船宿に灯が入る。夜の大川は無数の虹に染められて波新しく戦ぎだした。――鼓や、三味線や、声色流しや、秋の夜はこれからが長い。
「松のや露八」吉川英治(青空文庫)
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