久生十蘭の名文

久生十蘭の作品から、よく知られた一節を集めました。

4件

湖畔

この夏、拠処ない事情があって、箱根蘆ノ湖畔三ツ石の別荘で貴様の母を手にかけ、即日、東京検事局に自訴して出た。

久生十蘭『湖畔』の書き出し。父が息子へ宛てた手記の形で、妻を手にかけたという告白からいきなり始まる、凄みのある冒頭。

骨折が劇しかったので、なにか立派な芸術品でも仕上げたような満足を感じ、俺は懐手をしながら、一刻ぼんやりと眺めておッた。

『湖畔』の結び。身代わりの死体を林の奥に吊るし終えた「俺」の、不気味なほど落ち着いた満足で物語が閉じられる。

ハムレット

摂理というものは、機械の組織のように、抜目なく出来ているものだと、わたしもこのごろ信じるようになりました。ただし地獄がハムレットを投げかえしてよこしたことは、ハムレットにとって、幸福なのか、不幸なのかわたしにはまだわかりかねています

久生十蘭『ハムレット』の結び。炉辺で語られた数奇な物語の結びに、祖父江が摂理と地獄をめぐって漏らす言葉。

鈴木主水

元文元年の八月、内藤新宿の橋本屋で心中があった。男は鈴木主水という浪人者で、相手は白糸という遊女だった。

直木賞受賞作『鈴木主水』の終章の書き出し。主君を諫めるため放蕩の限りを尽くした主水の最期を、記録のような淡々とした筆で伝える。

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久生十蘭