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鈴木主水(久生十蘭)のあらすじ・登場人物

忠義とは、悪人になることか

  • 歴史
  • 心理

久生十蘭 1951年(昭和26年)11月 「オール讀物」

文字数
12,779字
読了目安
約26分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1951年(昭和26年)11月の「オール讀物」に発表され、第26回直木賞を受けた久生十蘭の時代小説。享保の世、遊興と放埒に溺れる姫路藩主・榊原政岑のもとで、藩の行く末を案じる若い家臣・鈴木主水が、月見の宴で一世一代の騒ぎを起こす。譜代の忠臣たちが次々と去ってゆく御家の乱れと、思いがけない女の心を描き、江戸の遊里で流行した唄「白糸くどき」にまつわる史実と虚構を絡ませた短篇である。

あらすじ

享保十八年九月十三日、四谷で剣術道場を開く鈴木伝内は、息子の主水が妙に装って池の端の下屋敷へ上がる様子を見て、何かを決意していると察する。主水は、美少年の近習として先代藩主に愛された、姫路藩榊原家の鉄砲頭。先代の死後、分家から入った若殿・政岑は、芸人上がりの者や素性の知れぬ取り巻きを重用し、愛妾お糸の方を傍らに吉原で豪遊して、幕府の忌諱に触れかねない振る舞いを重ねていた。譜代の重臣たちは愛想を尽かして次々に暇を取る。主水は、善人ばかりでは家は立ちゆかず、悪人が足りないのが不幸の源だと語り、後の月見の宴で乱暴を働く覚悟を固めていた。宴の席で主水は、お糸の方と密会し扇を預かった作り話を披露して満座を騒がせ、手を括られて連舞を命じられたうえ、勘当となる。実は刺すつもりでいたが、お糸の方の舞を見て思いとどまったのだった。青山の借家で、主水は妻お安から、お糸の方が吉原へ売られる前に別れを告げに訪れたと聞かされる。その後、主水は何者かの呼び出しに応じて男坂に向かい、押原右内ら一党に待ち伏せされる。主水は十人あまりを斬り伏せたが、その後の消息は伝わらない。翌元文元年、内藤新宿で「鈴木主水」を名乗る浪人と白糸という遊女の心中があり、遺書には播州侯の名を偽って遊里を歩いた詫びが記されていた。幕府は政岑に隠居を命じ、榊原家は越後高田へ国替となる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 享保十八年、九月十三日の朝、四谷塩町のはずれに小さな道場をもって、義世流の剣道を指南している鈴木伝内が、奥の小座敷で茶を飲みながら、築庭の秋草を見ているところへ、伜の主水が入ってきて、さり気ないようすで庭をながめだした。 「これからお上りか」とたずねると、「はっ、上ります」と愛想よくうなずいてみせた。  伝内は主水がかねてなにを考え、なにをしようとしているかおおよそのところは察していたが、いつにないとりつくろったような笑顔を見るなり、「いよいよ今日だな」と、そう感じた。今日、池の端の下邸で後の月見の宴があるが、主水は御前で思いきった乱暴をする決心でいる。心が通じあっているので、いまさら言置くこともなかったが、あまりみじめな終りにならぬよう、士道の吟味に関することだけは確かめておきたいと思った。たとえどのような無嗜無作法を働いても、主従の間でなすまじきことだけは、断じてせぬという戒懼のことである。

「鈴木主水」久生十蘭(青空文庫)

末尾部(原文より)

 この仕置は一刻ばかりつづき、男坂の界隈を血だらけにしたところで終った。押原右内は男坂をはね越し、新花町へ逃げこんだが、そこで仕留められた。この夜、主水は十人あまり斬っている。  元文元年の八月、内藤新宿の橋本屋で心中があった。男は鈴木主水という浪人者で、相手は白糸という遊女だった。書置があった。  手前事、長年、播州侯のお名を偽って遊里を徘徊したが、まことにもって慚愧のいたり  と書いてあった。  その年の九月十五日、榊原家の留守居に老中連名の奉書が交付された。すぐ早打で姫路へ知らせたので、親類、能勢因幡守、榊原七郎右衛門、同大膳の三人が十月の十二日に江戸へ着き、十三日に柳営へ出た。黒書院溜で老中列座の上、大目附稲生下野守から書附をもって、 式部大輔儀常々不行跡に付、隠居被仰付候急度相慎可罷在候、且、大手先屋布被召上、池之端下屋布居住可仕候  という御達があった。  家筋を思召され、家督は相違なく嫡子小平太(当年八歳、後に政永)へ下置かれる旨、月番老中本多中務大輔から申渡された。十一月一日、越後国頸城郡高田へ国替を命ぜられ、翌年、入部した。隠居の政岑は、その年、三十一歳で池の端の下邸で死んだ。鈴木主水の書置はどれほどの効果があったか知らないが、一説には、このために半地召上げを許されたともいう。「白糸くどき」のヤンレイ節が流行したのは、元文二年の末ごろからのことであった。

「鈴木主水」久生十蘭(青空文庫)

名文

元文元年の八月、内藤新宿の橋本屋で心中があった。男は鈴木主水という浪人者で、相手は白糸という遊女だった。

直木賞受賞作『鈴木主水』の終章の書き出し。主君を諫めるため放蕩の限りを尽くした主水の最期を、記録のような淡々とした筆で伝える。

原文を読む

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