雨の山吹(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
病む兄と妹の手紙、家族の情
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 16,440字
- 読了目安
- 約33分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1952年(昭和27年)、「講談倶楽部」に発表した時代小説。病に倒れた兄・兵庫と、その弟・又三郎。妹からの一通の手紙が家に持ちこんだ波紋をめぐって、家族の情と、若者の心の解放を描く。雨に濡れる山吹の花のような、しっとりとした情感の漂う一編である。
あらすじ
母の病間を見舞ってから兄・兵庫の部屋へゆくと、兄もまた床についていた。もとから痩せていた兵庫は、四五日眠れぬところへいやな事が起こり、酒をすごして、明け方に血のようなものを吐いたという。何があったのかと問う弟の又三郎に、兵庫は枕の下から一通の封書を取り出して、黙って渡す。宛名は兵庫、差出人は汝生という妹だった——その手紙が、静かな家に波紋を投げかける。兄の病、妹の手紙、そして又三郎自身の心。物語は、この兄弟と妹をめぐる情のもつれを、しっとりとした筆致でたどっていく。結び、又三郎は、若い女性のそばで、散りかかる花びらがその白い肌に貼りつくのを見ながら、「兄へなんと云おう」と、解放されたようなすがすがしい気持ちで思うのだった。雨に濡れる山吹のような、繊細な情感の漂う、山本の一編である。
登場人物
- 兵庫 病に倒れる兄
- 又三郎 兵庫の弟
- 汝生 手紙を寄こす妹
冒頭部(原文より)
母の病間をみまってから兄の部屋へゆくと、兄も寝床の上で医者と話していた。医者はすぐに帰り、兄は横になった。 「どうなさいました」 「ちょっと胃のぐあいが悪いんだ」兵庫は眉をしかめた、「――四五日よく眠れなかったところへ、いやな事が起こって、ゆうべちょっと酒をすごしたのがいけなかったらしい、明け方に血のようなものを吐いた」
「雨の山吹」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
女の腕は柔らかに肉付いて白く、健康な若い血に満ちていた。こころよい鋏の音につれて、散りかかる花びらが幾つか、その白いなめらかな肌に貼りついた。 ――兄へなんと云おう。 又三郎は解放されたような、すがすがしい気持で、そう思っていた。
「雨の山吹」山本周五郎(青空文庫)
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