大岡越前(吉川英治)のあらすじ・登場人物
人が人を裁くということ
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 218,494字
- 読了目安
- 約7時間17分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
名奉行として語り継がれてきた大岡忠相を、吉川英治が戦後まもなく書いた長編。「犬がうらやましい。ああ、なぜ人間なぞに生れたろう」という嘆きから幕を開け、貧しさと欲と義理の入り組んだ江戸の市井を舞台に、人が人を裁くことの重さを問う。「神ならねば、裁き得ぬはずのものを、人間が代って、それを示す」——裁きの場面に置かれたこの一言が、作品全体の主題を言いあてている。
あらすじ
「犬がうらやましい。ああ、なぜ人間なぞに生れたろう」——冗談にもそんな言葉が人の口にのぼるようになった時代から、物語は始まる。舞台は享保の江戸。市井には食い詰めた浪人、渡り者、女を売り買いする者たちが入りまじり、その底に貧しさと欲と義理とがからみあっている。三人男と呼ばれる無頼の徒、腰障子を開けて入ってくる男、酒に沈む市十郎——巷の人びとの日々が、細かな筆でひとつずつ描き出されてゆく。……そこへ、江戸町奉行として着任した大岡忠相の裁きが交錯する。持ち込まれるのは、どちらの言い分にも理があり、法だけでは切り分けられない訴えばかりである。「神の意じゃ。――神ならねば、裁き得ぬはずのものを、人間が代って、それを示す。おもえば、難かしい……。おたがいは、人間すぎる」と越前が漏らせば、「けれど、人間を裁くには、人間なればこそ、よく裁き得ることもありましょう」と応える者がある。裁きは名裁きとして人の口に上るが、そのたびに越前自身は、人が人を裁くという行いの底知れなさに向き合わされる。物語の終わり、一人の男が月の色とも霧の色ともつかぬ辻のかなたへ、何の感傷も持たない杖の音をさせて立ち去ってゆく。
登場人物
- 大岡越前守忠相 江戸町奉行。人を裁くことの重さに向き合う
- 鉄雲 杖をついて辻を去ってゆく男
- お袖 市井に生きる女
冒頭部(原文より)
第一章 三人男 「犬がうらやましい。ああ、なぜ人間なぞに生れたろう」 冗戯にも、人間仲間で、こんなことばを聞くことが近年では、めずらしくもなくなった。
「大岡越前」吉川英治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「雁ですよ。あれ、雁の群が、啼きわたって行ったのです。……では、私は、ここでお別れします。宇治から出て来たら、またお訪ねしましょう。そして、そのたび、二人でここへ、苗の育ちを、見に参ることにしましょう」 鉄雲は、びッこを曳いて、月の色か霧の色かとまごう辻彼方へ、ことことと、何の感傷も持たない杖の音をさせて立ち去った。
「大岡越前」吉川英治(青空文庫)
原文を読む
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