柘榴(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
老いて再会する愛の記憶
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 12,319字
- 読了目安
- 約25分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1948年(昭和23年)、「サン写真新聞」に発表した時代小説。若さゆえに夫・昌蔵を理解できず、破れた結婚。それから長い歳月を経て、老いた真沙は、亡き夫かもしれぬ一人の老人・伊助と、静かな余生の日々を過ごす。人の心の奥深くにある真実を、老年にいたって悟る女の姿を描いた、山本の名短編である。
あらすじ
真沙は、初めから良人が嫌いだったのではない。結婚が失敗に終わったのも、良人・昌蔵の罪だとは言えなかった。昌蔵のかなしい性質と、その性質を理解できなかった真沙の若さに、不幸があったのだ。松室の家は二代で中老から平徒士へと転落し、その環境が昌蔵の心に暗い影を落としていた。十七歳、年より遥かにもの識らずだった真沙は、嫁いだ先の新しい生活に衝撃を受け、恐怖と苦痛のうちに憔悴していく。「真沙はおれが嫌いなのか」と両手を掴む昌蔵の、いちずで激しい愛情に、真沙はどうしても応えることができなかった。やがて二人は破れた——。それから長い歳月が流れる。物語の結び、老いた真沙は六十三歳。亡き夫・昌蔵かもしれぬ、伊助という一人の老人と、静かな余生を過ごしていた。伊助は自分が昌蔵であることを否定したが、それは否定のかたちをとった肯定とも受け取れた。言葉やかたち以上の、人の心の奥深くに秘められた真実を理解する年齢に、真沙は達していたのだ。伊助が真沙のもとで死んだあと、雪の降り積もる庭の墓標の前で、真沙は物思いにふける。「――いい余生を送らせて貰いました」。伊助が最期に囁いたその言葉が、真沙を慰めるのに十分だった。老いてめぐりあう愛の記憶を、深い余情をもって描いた、山本の名短編である。
登場人物
- 真沙 若くして結婚に破れ、老いて伊助と再会する女
- 昌蔵 真沙の夫。かなしい性質を持つ
- 伊助 真沙の余生に現れた老人
冒頭部(原文より)
真沙は初めから良人が嫌いだったのではない。また結婚が失敗に終ったのも、良人の罪だとは云えない。昌蔵のかなしい性質と、その性質を理解することのできなかった真沙の若さに不幸があったのだと思う。
「柘榴」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
そして伊助が昌蔵であったにせよなかったにせよ、最期に囁いた彼の言葉は、真沙を慰めるのに十分であった。 ――いい余生を送らせて貰いました。
「柘榴」山本周五郎(青空文庫)
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