ひやめし物語(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
冷飯食いの青年の清らかな恋
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 15,869字
- 読了目安
- 約32分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 石川県
この作品について
山本周五郎が1947年(昭和22年)、「講談雑誌」に発表した時代小説。武家の四男坊として「冷飯食い」の部屋住み暮らしを送る、古本好きの青年・大四郎。街ですれ違う一人の女性に心を惹かれた彼の、初々しい恋の顛末を描く。おっとりした青年と、千羽鶴に願いをこめた娘の、清らかな結びつきが心にしみる、山本の人情ものである。
あらすじ
柴山家の四男坊・大四郎は、二十六歳になっても縁談に恵まれず、兄の厄介になる「冷飯食い」の部屋住み暮らし。だが当人はさして苦にもせず、月々の小遣いを溜めては古本を買い、傷んだ書物を丹念に直して蔵書印を捺すのを、この上ない楽しみにしていた。その古本あさりの途上、大四郎は一人の女性とすれ違う。決して美人ではないが、こちらを見てぱちぱちと目叩きをするとき、そこだけ花が咲くように美しくなる——そんな娘に、彼はどうしようもなく心を惹かれてしまう。自分の気持ちに気づいた大四郎は、すぐに母のもとへ相談にいく。この素直さが、大四郎という青年の得がたい持ち味だった。やがて結ばれた二人。妻となった娘・ぬひは、大四郎に打ち明ける。願いごとがあるときは観音様へ鶴を折り、九百九十九羽まで折ってひたすら祈り、願いが叶ったら千羽めを納めるのだ、と。「わたくし願いが協いましたの……これは千羽めでございますわ」。娘のひそかな祈りが、実は大四郎との縁を願うものだったと知れる結末が、静かな感動を呼ぶ。おっとりした青年と一途な娘の清らかな恋を描いた、山本の人情ものである。
登場人物
- 大四郎 柴山家の四男坊。古本好きの部屋住み
- ぬひ 大四郎が見そめ、妻となる娘
- 椙女 大四郎の母
冒頭部(原文より)
大四郎は一日のうち少なくとも二度は母の部屋へはいってゆく、「お母さんなにかありませんか」と、云うことは定っている。云わないで黙っているときもある。ながいあいだの習慣だから母親の椙女は、彼がそう云おうと黙っていようと、茶箪笥のほうへ振返って、「上の戸納をあけてごらんなさい、鉢の中に飴があった筈ですよ」と云う。
「ひやめし物語」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「わたくし願いが協いましたの」ぬひは恥ずかしさに耐えぬもののように呟いた、「……これは千羽めでございますわ」
「ひやめし物語」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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