合歓木の蔭(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
見つめる眼から始まる恋
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 13,747字
- 読了目安
- 約27分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1948年(昭和23年)、「新読物」に発表した時代小説。二の丸御殿のこけら落しの能の席で、友のない娘・奈尾は、誰かの熱い視線を感じる。その見つめる眼から始まる、ひそやかな恋を、初々しく描いた一編である。
あらすじ
誰かが自分を見ている——奈尾は、さっきからそのことに気づいていた。二の丸御殿のこけら落しに、江戸から観世一座が呼ばれ、殿さまも弁慶をつとめる能の席。母のない奈尾は叔母に付き添われて来たが、叔母が旧友たちと話しこむうち、会話の外に取り残されていた。友達というもののない奈尾のまわりでは、同じ年ごろの娘たちが楽しげに耳こすりをしている。そんな奈尾に注がれる、男の席からの熱い視線。さりげなく振り向いても、その眼はすばやくそらされて、とらえることができない。不愉快ではないが、いらいらしてくる——だがやがて、その視線の当たるところが熱くなり、それが胸に伝わって、あまやかに唆るような不思議な幸福感に、奈尾は包まれる。十七になる今日まで知らなかった、鋭い快楽のような感じ。「どなただろう、兄上のお友達かしら」。この見つめる眼から始まった恋は、やがて実を結ぶ。物語の結び、良人となった岩田半三郎の胸に、奈尾はなかば笑いなかば泣きながら顔をすりつける。「申し上げてもいいでしょうか、わたくしがあなたをこんなに愛していることを――こんなにこんなに愛しているということを……」。初々しい恋の成就を、あたたかく描いた、山本の一編である。
登場人物
- 奈尾 友のない娘
- 岩田半三郎 奈尾を見つめ、のち夫となる男
冒頭部(原文より)
誰かが自分を見ている。奈尾はさっきからそのことに気がついていた。もちろん右側の男たちの席からである、さりげなく振り向いてみるが、その人はすばやく視線をそらすとみえて、どうしてもその眼をとらえることが出来なかった。
「合歓木の蔭」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「申し上げてもいいでしょうか」 奈尾は激しく頬を良人の胸へすりつけなかば笑いなかば泣きながらこう云った。 「申し上げてもいいでしょうか、わたくしがあなたをこんなに愛していることを――こんなにこんなに愛しているということを……」
「合歓木の蔭」山本周五郎(青空文庫)
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