山椿(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
堅物が気づく従妹への情
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 15,918字
- 読了目安
- 約32分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1948年(昭和23年)、「講談雑誌」に発表した時代小説。几帳面で現実的な作事奉行・梶井主馬と、明るく屈託のない従妹・みち。主馬はみちの陽気さをうるさく思っていたが……。堅物の男が、身近な女性のかけがえのなさに気づいていく、あたたかなユーモアに包まれた一編である。
あらすじ
梶井主馬は、二十五歳で亡き父の職を継いで作事奉行になった、平凡だが有能な事務家である。現実的できちょうめん、何ごとも類別し統計して対照表に作らないと承知しない、という堅物だった。両親を亡くしたあと、従妹のみちが主婦の役をつとめている。みちは、十六の年に梶井家へひきとられた孤児で、思わしい縁談もないうちに婚期が過ぎ、生花と笛の稽古で身を立てるのだと言っている。だが陽気でものにこだわらぬ性質で、家の中に適当な笑い声を絶やさない。主馬にはこれが軽薄でうるさく、苦にがしいだけだった。そんな主馬に、須藤家との縁談が持ち上がる。几帳面な主馬は、五十日あまり細ごまとしたことに気を労し、「一生にいちどだから慎ましく」と、なんでも新調しようとするみちと言い合いになる。ところが物語の結び、意外な展開が待っていた——みちが見惚れていた美しい模様の着物こそ、彼女自身の結婚衣裳であり、みちが梶井の嫁になるのだ、と。それをどう切り出したものかと途方にくれる主馬。堅物の男が、いちばん身近にいた女性のかけがえのなさに気づいていく、あたたかなユーモアに包まれた、山本の一編である。
登場人物
- 梶井主馬 几帳面な作事奉行
- みち 主馬の従妹。明るく屈託がない
冒頭部(原文より)
梶井主馬と須藤きぬ女との結婚式は、十一月中旬の凍てのひどい宵に挙げられた。 主馬は二十五歳のとき亡き父の職を継いで作事奉行になった。それには世襲の意味もないではないが、彼にはその才能のあることが認められたのも慥かだ。
「山椿」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
主馬はとうとう失笑した。みちは裾を曳いて振返ったり、長い袂を返してみたりしていたが、従兄に笑われて赤くなりながら、「あら」と云った。 だが彼は途方にくれた。それがみちの結婚衣裳で、それを着て梶井の嫁になるんだということを、どういう風に話しだしたものかと。――みちはまだ模様に見惚れていた。
「山椿」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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