蘭(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
一輪の蘭が語る友の覚悟
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 10,252字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1948年(昭和23年)、「家の光」に発表した時代小説。平三郎の親友・須川生之助は、穏便に事をおさめると約束しながら、藤六を斬って自害した。生之助が最期に遺した文箱におさめられていた一輪の蘭——友の秘めた覚悟の深さを、香り高く描いた一編である。
あらすじ
秋の日の暮れがた、平三郎は、窓の外の鬱々とした杉林や女ダケの葉むら、飛びたつ鶉の羽音を眺めながら、「そうだ、会ってはっきり云おう」とつぶやく——その時の印象は、ずっと後になるまで鮮やかに残った。親友の須川生之助は、ある争いごとを「必ず穏便におさめてみせる」と、静かな確信ありげな表情で平三郎に約束していた。ところが——生之助は、藤六を斬り、自ら命を絶ってしまう。「生之助が、生之助が……」とうめく声。平三郎の驚きは、たとえようもなかった。あの言葉は自分を安心させるためだったのか、あの時すでに死を覚悟していたのか、その深い思慮が自分にはわからなかったのか——平三郎は拳を膝に突きたてる。そこへ、国もとからの急使が持参した、生之助から平三郎への文箱が届けられる。ふくさを解いて文箱の蓋をあけると、高雅な香りが平三郎の面をうった。中には、一輪の蘭の花が、しんとおさめられていたのだった。言葉ではなく一輪の花に託された、友の秘めた心の深さを、香り高く描いた、山本の一編である。
登場人物
- 平三郎 生之助の親友
- 須川生之助 藤六を斬って自害する武士
冒頭部(原文より)
秋の日はすでに落ちていた。 机にむかって筆を持ったまま、もの思いにふけっていた平三郎は、明り障子の蒼茫と暗くなっていくのに気づいて、筆をおきながら、しずかに立って窓を明けた。
「蘭」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「殿中でははばかりであるが、殿のおゆるしがござったのでお渡し申す」そう云った使役は、ふくさに包んだ文ばこをさしだした。「国もとからの急使が持参したもので、須川生之助よりそこもとへの文でござる」 平三郎は座をすべり、しずかにふくさをときひろげた。須川の家紋を散らした文ばこのふたをあけると、こもっていた高雅な香りが、かれの面をうった。……中には一輪の蘭花が、しんとおさめてあった。
「蘭」山本周五郎(青空文庫)
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