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蘭(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

一輪の蘭が語る友の覚悟

  • 歴史
  • 心理

山本周五郎 1948年(昭和23年)8月 「家の光」

文字数
10,252字
読了目安
約21分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

山本周五郎が1948年(昭和23年)、「家の光」に発表した時代小説。平三郎の親友・須川生之助は、穏便に事をおさめると約束しながら、藤六を斬って自害した。生之助が最期に遺した文箱におさめられていた一輪の蘭——友の秘めた覚悟の深さを、香り高く描いた一編である。

あらすじ

秋の日の暮れがた、平三郎は、窓の外の鬱々とした杉林や女ダケの葉むら、飛びたつ鶉の羽音を眺めながら、「そうだ、会ってはっきり云おう」とつぶやく——その時の印象は、ずっと後になるまで鮮やかに残った。親友の須川生之助は、ある争いごとを「必ず穏便におさめてみせる」と、静かな確信ありげな表情で平三郎に約束していた。ところが——生之助は、藤六を斬り、自ら命を絶ってしまう。「生之助が、生之助が……」とうめく声。平三郎の驚きは、たとえようもなかった。あの言葉は自分を安心させるためだったのか、あの時すでに死を覚悟していたのか、その深い思慮が自分にはわからなかったのか——平三郎は拳を膝に突きたてる。そこへ、国もとからの急使が持参した、生之助から平三郎への文箱が届けられる。ふくさを解いて文箱の蓋をあけると、高雅な香りが平三郎の面をうった。中には、一輪の蘭の花が、しんとおさめられていたのだった。言葉ではなく一輪の花に託された、友の秘めた心の深さを、香り高く描いた、山本の一編である。

登場人物

冒頭部(原文より)

 秋の日はすでに落ちていた。  机にむかって筆を持ったまま、もの思いにふけっていた平三郎は、明り障子の蒼茫と暗くなっていくのに気づいて、筆をおきながら、しずかに立って窓を明けた。

「蘭」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

「殿中でははばかりであるが、殿のおゆるしがござったのでお渡し申す」そう云った使役は、ふくさに包んだ文ばこをさしだした。「国もとからの急使が持参したもので、須川生之助よりそこもとへの文でござる」  平三郎は座をすべり、しずかにふくさをときひろげた。須川の家紋を散らした文ばこのふたをあけると、こもっていた高雅な香りが、かれの面をうった。……中には一輪の蘭花が、しんとおさめてあった。

「蘭」山本周五郎(青空文庫)

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