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泥棒と若殿(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

廃屋で結ばれた、若殿と泥棒の情

  • 心理
  • 歴史

山本周五郎 1949年(昭和24年)12月 「講談倶楽部」

文字数
20,601字
読了目安
約41分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

御家騒動に敗れ、荒れ果てた屋敷に幽閉された若殿と、忍びこんだ小盗人・伝九郎。身分も育ちもまるでちがう二人が、雨漏りのする廃屋で奇妙な共同生活を始める。山本周五郎が得意とした「市井のやさしさ」がもっとも澄んだかたちで結晶した中編で、別れの場面の切なさは周五郎作品でも屈指と評される。

あらすじ

御家騒動に敗れ、死ぬこともゆるされずに荒れ果てた下屋敷へ押しこめられた若殿・成信は、生きる気力を失い、日々を投げやりに過ごしていた。ある夜、床の抜けた広縁を踏み抜いてやってきたのは、出刃庖丁を構えた小柄な盗人・伝九郎である。「金を出せ」と凄んでみたものの、屋敷にはなにもない。呆れながらも成信の境遇を知った伝九郎は、そのまま居ついてしまう。米を運び、屋根を繕い、成信のために働いて、二人は妙な同居を始めた。世間を知らぬ若殿は、伝九郎の口ぶりや暮らしの知恵に感心し、伝九郎は伝九郎で、生まれてはじめて人に頼られる喜びを知る。荒れ屋敷にささやかな灯がともり、二人は「一生ふたりで暮せる」と思うほどになった。だがある日、成信のもとに家中の情勢が変わったという知らせが届く。武士として立つ道がふたたび開けたのだ。最後の晩、成信は伝九郎にごちそうをふるまい、別れを告げる。「おまえがおまえらしく生きるように、おれもおれらしく生きたくなったんだ」。「おらあ信さんといっしょにいたかった」と柱を抱いて泣く伝九郎を背に、成信は歯をくいしばって門を出てゆく。まだ西風が強く、夜空はちりばめたような星であった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 その物音は初め広縁のあたりから聞えた。縁側の板がぎしっとかなり高く鳴ったのである、成信は本能的に枕許の刀へ手をのばした、しかし指が鞘に触れると、いまさらなんだという気持になって手をひっこめた。  ――もうたくさんだ、どうにでも好きなようにするがいい、飽き飽きした。

「泥棒と若殿」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

「それじあ、いっちまうんだな、信さん」伝九郎の声がうしろから追って来た、「おらあもうとめねえよ、――どうかりっぱに出世して呉んな、……祈ってるからな、病まねえようにして、――いつか、もしできたら、会いに来て呉んな、信さん、おらあ待ってるぜ」  歯をくいしばり、耳をふさぐおもいで、成信はずんずん門の外へ出た。  まだ西風が強く、夜空はちりばめたような星であった。  ――信さん、いっちまうのか信さん。  成信の耳には伝九郎のかなしい声がいつまでも聞えていた。

「泥棒と若殿」山本周五郎(青空文庫)

原文を読む

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