顎十郎捕物帳 氷献上(久生十蘭)のあらすじ・登場人物
将軍に献上する加賀の氷が消えた
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 17,674字
- 読了目安
- 約35分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
久生十蘭が1939年(昭和14年)から雑誌『奇譚』に六戸部力の名義で連載した「顎十郎捕物帳」の一編(本編の初出は未詳)。長い顎から「顎十郎」と呼ばれる仙波阿古十郎は、北町奉行所の例繰方の見習いで、大名屋敷の陸尺や中間たちに慕われる風来坊。本編の舞台は、六月朔日に加賀藩の氷室から将軍へ雪を献上する「加賀さまの氷献上」の日。献上の氷が一ツ橋御門前で桐箱ごと奪われ、病の子に氷を欲しがっていた長屋の浪人が捕らえられる。夏の江戸の年中行事を描き込んだ、人情味の濃い一編。
あらすじ
六月朔日、本郷の加賀屋敷では氷室を開いて将軍へ雪を献上し、余りを町の人々に振る舞う。浪人の青地源右衛門は、熱にうなされて雪を欲しがる息子のために丼を持って並ぶが、順番が来たところで氷は尽き、逆上して献上の駕籠を追いかけてでも取ってみせると叫んで駆け出す。まもなく、一ツ橋御門前で献上の駕籠が覆面の浪人風の男に体当たりされ、氷の桐箱が奪われた。駕籠を担いでいたのは加賀屋敷の陸尺の寅吉と為。顎十郎は銭湯で寅吉からこの話を聞き、さらに隣の隠居から、捕らえられたのが同じ長屋の青地だと知らされる。青地は、家の上がり口に置かれていた氷を息子に与えて使い切り、自ら名乗り出たのだが、急に自分が盗んだと言い出していた。顎十郎は陸尺たちに駕籠を担がせ、当日と同じ時刻で実地に試す。遅れて走り出した者が先回りできるかを確かめると、自分も早飛脚も間に合わない。牢で青地に会うと、空き屋敷から釣台が出てきたという話の矛盾を突き、勘当した長男をかばっての嘘だと白状させる。駕籠に体当たりしたのは、博打の喧嘩で逃げていた御家人くずれで、氷には手を出していなかった。氷を青地の家に投げ込んだのは、転がり出た箱を見て青地の子を思い、盗人騒ぎを装った寅吉と為だった。顎十郎は二人を見抜きつつ、氷は溶けて水に返ったと、事を収める。
登場人物
- 仙波阿古十郎(顎十郎) 北町奉行所の例繰方の見習い。陸尺たちを動かして駕籠の道のりを実地に確かめる
- 青地源右衛門 顎十郎と同じ長屋に住む浪人。居合の名人だが貧しく、熱病の息子のために氷を求める
- 寅吉・為 加賀屋敷の陸尺。献上の氷の駕籠を担いでいた
- 藤波友衛 南町奉行所の同心。青地を氷盗人として捕らえる
- 謡の隠居 長屋の老人。青地の息子を預かり、顎十郎に助けを頼む
冒頭部(原文より)
賜氷の節 「これ、押すな、押すな。……押すな、と申すに」 「どうか、お氷を……」
「顎十郎捕物帳 氷献上」久生十蘭(青空文庫)
末尾部(原文より)
「こりゃあ、えれいことになった。……それで、あっしたちのほうはどうなりましょう」 「どうなるものか。……氷は溶けてあとかたなし。水から出て水にかえる。……まず、なにごともなかったことにすればいい」
「顎十郎捕物帳 氷献上」久生十蘭(青空文庫)
原文を読む
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