顎十郎捕物帳 稲荷の使(久生十蘭)のあらすじ・登場人物
消えた証拠の印籠と枯れゆく万年青
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 11,832字
- 読了目安
- 約24分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
久生十蘭が1939年(昭和14年)から雑誌『奇譚』に六戸部力の名義で連載した「顎十郎捕物帳」の一編。主人公の仙波阿古十郎は、長い顎から「顎十郎」と呼ばれる風来坊で、北町奉行所の例繰方の見習いに収まりながら、捕物帳を読みふけって寝転がっている。本編では、強情一徹な叔父の与力・森川庄兵衛が、連続毒殺事件の唯一の証拠である印籠を紛失し、同じころ自慢の万年青が枯れはじめる。叔父と顎十郎、娘の花世とのやりとりも楽しい、江戸の初午を背景にした小品。
あらすじ
北町奉行所の吟味方筆頭与力・森川庄兵衛は、強情で負けず嫌いの頑固親爺。その庄兵衛が、湯島と両国で女が相次いで毒殺された事件の唯一の手がかり、毒芹の根の粉を収めた狐の高肉彫の印籠を、屋敷で失くしてしまう。居間には誰も入れず、外から忍び込んだ形跡もない。北番所の名を上げる好機が一転して面目丸つぶれの危機となり、庄兵衛は娘の花世にも甥の阿古十郎にも隠して、手下に市中を探させる。同じころ、二千両の値がつく自慢の万年青「錦明宝」が急に枯れはじめ、庄兵衛は気が気でない。花世から事情を聞いた顎十郎は、居間の様子を思い浮かべただけで真相を見抜く。初午の日、笠森稲荷へ来いという怪しい呼び出しで庄兵衛が出かけると、顎十郎は裏木戸の桟を外して待つ。やがて植木屋を名乗る若い職人が現れ、万年青の手入れにかこつけて鉢に手をかける。顎十郎がとぼけた調子で道具を渡しながら追いつめると、男は匕首を抜くが、あっさりあしらわれる。印籠は、取り返しに来た男が足音に驚いて万年青の鉢の底に隠したもので、こぼれた毒が万年青を枯らしていたのだった。顎十郎は狐の図柄から男の素性を言い当てて立ち去らせ、手柄は帰宅した叔父に「推理」させて花を持たせる。
登場人物
- 仙波阿古十郎(顎十郎) 庄兵衛の甥。北町奉行所の例繰方の見習いだが、出仕もせず寝転がってばかりいる。とぼけた顔で叔父の窮地を救う
- 森川庄兵衛 北町奉行所の吟味方筆頭与力。強情で負けず嫌いの頑固者だが、娘と万年青には目がない
- 花世 庄兵衛の一人娘で十七歳。気さくで物怖じせず、顎十郎を「顎さん」と呼べる唯一の人
- 植木屋の職人 出入りの植木屋を装って屋敷に入ってくる、二十五、六の男前の男
冒頭部(原文より)
獅子噛 春がすみ。 どかどんどかどん、初午の太鼓。鳶がぴいひょろぴいひょろ。
「顎十郎捕物帳 稲荷の使」久生十蘭(青空文庫)
末尾部(原文より)
庄兵衛老は、鷹揚にうなずきながら、 「判りゃアそれでいい。……以来、あまり広言を吐くなよ。……時に、貴様、もう小遣が無くなったろう」
「顎十郎捕物帳 稲荷の使」久生十蘭(青空文庫)
原文を読む
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