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葦は見ていた(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

葦だけが見た十八年前の罪

  • 歴史
  • ミステリ

山本周五郎 1947年(昭和22年)6月 「週刊朝日」

文字数
17,992字
読了目安
約36分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

山本周五郎が1947年(昭和22年)、「週刊朝日」に発表した時代小説。濃い霧に包まれた熊井川の葦のしげみ——十八年前の夏の早朝、その葦だけが見ていた出来事があった。私欲のために生きる男・頼母の姿と、川岸の葦のざわめきに、人の罪と因果を静かに忍ばせた一編である。

あらすじ

五月はじめの朝四時ごろ、熊井川は濃い霧に掩われていた。川岸から川の中まで生い茂る葦、脆く崩れる十尺余りの堤、そして人の登りおりした跡——観音寺の丘陵の端をまわった川が大きく曲がってつくる、ひろい淀みのほとり。風もなく、わずかに動く霧のなか、一羽の鵜が音もなく飛び去っていく。この静かな川辺の葦が、かつて見ていたものがあった。十八年前の夏の早朝、濃い霧の中で起きた、ある出来事——それを、川岸の葦だけが目撃していたのだ。物語の中心にいるのは、私欲のために生きる男・頼母である。彼のもとに、ある女が「よろこびと、幸福」と書き遺して死んだ一通の手紙が届く。だが頼母は、それを読んでも何も思いださず、「どんな女か知らぬが、ばかなことをしたものだ」と軽侮の眉をしかめて、手紙を投げ捨てる。そして、あらためて「城代」の地位を手に入れる計画を、たのしげに考えはじめるのだった。風が渡り、葦がさわさわと鳴りなびく——十八年前の出来事と、いま頼母が手紙を投げ捨てたことについて、葦たちは何か囁きあっているようだった。人の罪と因果を、川辺の葦のざわめきに託して描いた、山本の一編である。

登場人物

冒頭部(原文より)

 五月はじめの朝四時ごろ、――  熊井川は濃い霧に掩われていた。まだあたりは薄暗く、どちらを見ても殆んどみとおしはきかない。川岸には葦が茂っていた、葦は岸から川の中まで、川の中の七八間さきまでも生え、それが川上にも川下にも続いている。

「葦は見ていた」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 頼母はその手紙を投げ捨て、もういちど釣竿を土に突き立てた。  風が渡って来て、葦が片向きに、葉をそろえてなびき揺れた。さわさわと乾いた音をたてながら、――葦たちはなにか囁きあっているようであった。十八年まえの或る夏の早朝、濃い霧の中であった出来事と、いま頼母が手紙を投げ捨てたことについて、……風がしきりに渡り、葦はさわさわと鳴りなびいていた。

「葦は見ていた」山本周五郎(青空文庫)

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