明治開化 安吾捕物 その一 舞踏会殺人事件(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
仮装舞踏会、衆人の前の死
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 23,645字
- 読了目安
- 約47分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
坂口安吾が1950年(昭和25年)10月から「小説新潮」に連載した連作探偵小説「明治開化 安吾捕物」の第一話。明治十八、九年の東京を舞台に、洋行帰りの紳士探偵・結城新十郎が、剣術使いの泉山虎之介、薩摩出の戯作者・花廼屋因果を従えて難事件に挑む。虎之介は事件のたびに氷川の勝海舟を訪ね、その「心眼」を借りて新十郎を出し抜こうとする――という趣向が以後の各話の型になる。本編は、政府が国運を賭けた製鉄所の借款をめぐって列強の思惑が渦巻くなか、大政商の邸で開かれた仮装舞踏会のさなか、主人が衆人環視のもとで倒れる事件。政界・外交の裏面と、戯画化された人物たちの掛け合いが絡み合う、シリーズの幕開けである。
あらすじ
明治十八、九年。政府は大製鉄所を興すため、政商加納五兵衛の名でX国から五百万ポンドの借款を得ようとしていたが、対立するZ国は総理上泉善鬼の政敵・対馬典六と政商神田正彦に別の事業を持ちかけ、交渉は暗礁に乗り上げていた。そんな折、加納邸で各国大公使や閣僚を招いた仮装舞踏会が開かれる。五兵衛は「幽霊」からの呼び出しで烏森の料亭へ出かけ、会におくれて戻ると茶漬けをかき込み、雲助に扮して会場へ駆けつけた。やがて沐浴のヴィーナスに扮した娘お梨江が、抱えた壺から這い出した蛇に驚いて卒倒し、人々の目がそちらへ向いたとき、五兵衛が倒れる。脇腹には小柄が突き刺さっており、虚無僧姿の画家田所金次が彼を抱きとめていた。警視総監に呼ばれた結城新十郎は、虎之介・花廼屋とともに調べを始める。お梨江は田所の秘密を下男に聞けと告げ、田所が後妻アツ子の情夫であることが知れる。新十郎は五兵衛が好んで食べる梅干の壺の数にまで目を配り、虎之介は勝海舟に意見を仰ぐが、海舟は神田正彦こそが下手人だと見立てる。翌日、新十郎は梅干の数が増えていることを確かめ、西洋医の風巻先生に遺体を診せて、五兵衛の死因が刀傷ではなく毒であることを明らかにする。梅干に毒を仕込んで夫を料亭へおびき出し、毒が回ったところで情夫田所に小柄を突き立てさせたのはアツ子であった。田所は捕らえられ、アツ子は不義の子良介を刺して自害していた。
登場人物
- 結城新十郎 旗本の末孫で洋行帰りの紳士探偵。警視庁の雇いとして難事件に出馬する
- 泉山虎之介 神楽坂の剣術使い。探偵に凝り、勝海舟の知恵を借りて新十郎を出し抜こうとする
- 花廼屋因果 薩摩出身の元鉄砲組小隊長で、いまは戯作者。探偵好きで新十郎についてまわる
- 勝海舟 氷川の屋敷に住む。虎之介の話を聞いて推理を語る
- 古田鹿蔵 新十郎附きの老巡査。命じられた聞き込みを律儀に果たす
- 加納五兵衛 大政商。自邸の仮装舞踏会のさなかに倒れる
- お梨江 五兵衛の娘。勝気な令嬢で、蛇に驚いて卒倒する
- アツ子 五兵衛の後妻。大名華族の娘
- 田所金次 洋行帰りの油絵描き。虚無僧に扮して倒れた五兵衛を抱きとめる
- 速水星玄 警視総監。大酒のみで癇癪もちの大坊主
冒頭部(原文より)
氷川の海舟屋敷の黒板塀をくぐったのは神楽坂の剣術使い泉山虎之介。この男、時はもう明治十八九年という開化の時世であるが、酔っぱらうと、泉山虎之介タチバナの時安と見得を切って女中のホッペタをなめたがる悪癖がある。 虎之介は幼少のころ、海舟について剣術を習ったことがある。そのころの勝海舟はいたって貧乏、まだ幕府には重用されず、剣術や蘭学などをメシの種にしていた。習うこと二三年、海舟が官について多忙になったので、山岡鉄舟にあずけられた。そのとき虎之介は今なら小学校四五年生ぐらいの子供、それからズッと山岡について剣術を学び、今は神楽坂で道場をひらいているが、あんまりはやらない。
「明治開化 安吾捕物 その一 舞踏会殺人事件」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
虎之介は改めて海舟のおそるべき心眼にただもう感服、ことごとく謹聴してわが心眼の曇りを浄めているのであった。
「明治開化 安吾捕物 その一 舞踏会殺人事件」坂口安吾(青空文庫)
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