紫大納言(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
月の笛を拾った色好み
- 幻想
- 歴史
- 文字数
- 12,899字
- 読了目安
- 約26分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 京都府
この作品について
平安の花山院のころ、五十歳になっても色好みの衰えない肥満の大納言が、山中で月の国の侍女が落とした小笛を拾う。笛を返してほしいと願う天女と、返さずに引き留めようとする大納言とのやりとりを、古風な文体で描く。盗賊の袴垂れ保輔も登場し、王朝物語の趣をとりながら、女を前にした男の官能と悔いを語る。初出は図書カードに記載がない。
あらすじ
花山院の御代、五十歳になる紫の大納言は、よく肥え、夜ごと女のもとへ通う色好みだった。都は盗賊・袴垂れの保輔の一党に脅かされていたが、大納言は怖れず夜道を歩く。ある夏の夜、雷雨のなかで一管の小笛を拾うと、月の国の侍女と名乗る女が現れ、笛を返してほしいと頼む。大納言は五日だけの滞在を求めて山科の家へ連れて行くが、天女の嘆くさまを見るうち、自分でも覚えのない冷たい怖れにとらわれる。翌日、笛を手に家を出た大納言は、谷あいで袴垂れの一党に笛も太刀も衣も奪われる。天女のもとへ戻って言い訳をするが見抜かれ、心を乱して天女を抱きすくめてしまう。悔いに駆られて笛を取り返そうと山をさまよい、盗賊に打ちのめされた大納言は、谷川の水に自分の顔を映し、その水をすくおうとして、からだごと一掬の水になって流れ去る。
登場人物
- 紫の大納言 色好みの肥満した貴族
- 天女 月の国の姫に仕える侍女
- 保輔(袴垂れ) 盗賊の首領
冒頭部(原文より)
昔、花山院の御時、紫の大納言という人があった。贅肉がたまたま人の姿をかりたように、よくふとっていた。すでに五十の齢であったが、音にきこえた色好みには衰えもなく、夜毎におちこちの女に通った。
「紫大納言」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
大納言は、てのひらに水をすくい、がつがつと、それを一気に飲もうとして、顔をよせた。と、彼のからだは、わがてのひらの水の中へ、頭を先にするりとばかりすべりこみ、そこに溢れるただ一掬の水となり、せせらぎへ、ばちゃりと落ちて、流れてしまった。
「紫大納言」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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