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孤独閑談(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

食堂の娘の家出と親の執念

  • 心理

坂口安吾 

文字数
12,591字
読了目安
約25分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 京都府

この作品について

京都の食堂の二階に住む「僕」が、食堂の十七歳の養女の家出に巻き込まれ、親子の愛情とは何かを考える作品。「古都」と同じ弁当屋の老いた亭主と気の強い主婦が登場するが、こちらは家出した娘と、その捜索をめぐる出来事に焦点が絞られる。図書カードには初出の記載がない。

あらすじ

食堂の二階に下宿する「僕」のもとへ、食堂の十七歳の養女が家出したという知らせが入る。娘は主婦の姉の子で、三つのころに貰われてきた。一度目の家出は喫茶店で働いていたが、今度は親に敵意を見せて無言を貫く。娘を連れ戻した夫婦から、男があるか、もう処女でなくなったかを突きとめてほしいと頼まれ、僕は「親だけが子供に祈る処女」という言葉に動物的な激しさを感じる。主婦は逆上して二階に上がり、娘に馬乗りになって髪を引きむしるが、娘は哄笑し、翌日の夕方、着物一包みを持って本格的に姿をくらました。親爺夫婦は懇願し、僕は友人の三宅君と娘の手紙を手掛かりに、京都じゅうの不良少女を訪ね歩くが、どの娘も巧みに自分の弁護ばかりして肝心なことは語らない。十日ほどして娘を見つけたのは、手紙の「看護婦」の正体だった不良少年の父、大工の棟梁の一族だった。娘は暴行を受けて途方にくれていたところを二十一歳の学生に介抱され、その男に身も心も捧げきっていた。僕は男を一晩考えさせたのち、約束の日に学生証を持って現れた男に免じて、親を説いて二人の結婚を許させ、娘は着物の包みを持って僕にだけ見送られて去った。その後も主婦は娘の様子を気に病んで銀閣寺近くまで来るが、娘は恐怖に化石したようになる。僕は、主婦の心には娘より自分の老いへの恐怖がある、と感じて京都を去る。

登場人物

冒頭部(原文より)

 食堂の二階には僕の外にノンビリさんと称ばれる失業中の洋服職人が泊つてをり、心臓と脚気が悪くて年中額に脂汗を浮かべ、下宿料の催促を受けて「自殺したうなつた」かう呟きながら階段を降りたり上つたりしてゐたが、食堂の娘の家出に就て、女学校の四年生に弁当の配達をさせるのがいけないのだ、と非常にアッサリ断定した。路で友達に逢うたら羞しうて気持の荒ぶ年頃やさかい、かう言ふ。女学校へあげるくらゐなら竈の前でこき使ふのは構はないが、弁当箱をぶらさげて配達に使ふのは甚だ宜しくない。だから不良少女になつたのである、といふ意見であつた。成程、人各々自分の生活から掴みだした一家の考察があるものだ、と僕は感心した。

「孤独閑談」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 おせつかい。それを気に病むことがなかつたのである。変に、自信があつた。二人の若い恋人達の未来に就てのことではない。そんなことには、全然、責任を感じなかつた。僕はたゞ食堂いつぱいに漂ひさまようてゐる主婦の肉体の亡魂に就て自信があつた。情緒は末の末である。銀閣寺界隈の娘の侘び住居へ忍び寄つてほろりとしてゐる等といふのは悪趣味も甚しい。そんな所に、あなたはゐない。あなたの血液は食堂の中で煮え狂ひ、亡魂は重なる呪咀と悔いのために歯ぎしりしてゐる。――それを僕はむしろ甚だ可憐だと思つた。親爺も亦最も可憐であつた。京都を去るとき、主婦はたしか甘栗と八橋を汽車の窓から投げこんでくれたやうだ。かうして僕は京都に別れを告げた。可憐なる人々よ。さようなら。

「孤独閑談」坂口安吾(青空文庫)

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