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土の中からの話(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

農民と土をめぐる辛口随筆

坂口安吾 

文字数
10,298字
読了目安
約21分
表記
新字新仮名
種別
随筆

この作品について

原稿用紙と作家の関係から説き起こし、日本の農民と土地の結びつきを論じ、最後に「土の中から生まれた話」として一つの昔話を添えた、坂口安吾の随筆。農民を淳朴な善人とする通念を退け、歴史を動かしてきた農民の損得勘定と、責任を他人に帰す気風を辛辣に論じる。後半は今昔物語の信濃守の話などを引き、紀州の百姓が牛に生まれ変わる民話風の小話へつながる。初出は不詳である。

あらすじ

筆者はまず、新聞紙をまたいで父に叱られた思い出から、作る人間は自分の素材に愛着をもつことを述べる。作家にとっての原稿用紙が、農民にとっては土にあたる。土と農民の関係は大化改新以来ほとんど変わらず、土地の私有が続く限り、農村の本質的な変化は起きないと筆者は考える。農民は昔から脱税や逃亡で法をくぐり、日本史を動かしてきたのは農民の損得勘定だった。しかし農民は自分は善良で、悪いのはいつも他人だと信じ、自己反省がない。今昔物語の、谷底に落ちても平茸を持ち上げた国司の話を引いて、農民自身が自分の姿にこれほどの諷刺と愛嬌を添えられないのが残念だと述べる。最後に紀州の百姓の昔話を書き添える。借りた酒の代金を返せずに死んだ男が、和尚の牛に生まれ変わり、荒っぽい寺男にこき使われた末に許されるが、元の女房は別の男の洗濯をして、牛の夢などまるで知らないというものである。

冒頭部(原文より)

私は子供のとき新聞紙をまたいで親父に叱られた。尊い人の写真なども載るものだから、と親父の理窟であるが、親父自身そう思いこんでいたにしても実際はそうではないので、私の親父は商売が新聞記者なのだから、新聞紙にも自分のいのちを感じていたに相違ない。誰しも自分の商売に就てはそうなので、私のようなだらしのない人間でも原稿用紙だけは身体の一部分のように大切にいたわる。先日徹夜して小説を書きあげたら変に心臓がドキドキして息苦しくなってきたので、書きあげた五十枚ほどの小説を胸にあててみた。夏のことで暑いからふと紙のつめたさを胸に押し当ててみる気持になっただけのことであるが、心臓の上へ小説を押し当てていると、私はだらしなくセンチメンタルになって、なつかしさで全てが一つに溶けてゆくような気持になった。理窟ではないので、自分の仕事の愛情はそういうものだ。

「土の中からの話」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

ある日のこと和尚が用たしにでて隣村を通ると、牛になった男の女房だった女が川で洗濯しているのを見かけた。この女は男が死ぬと何日もたたないうちに別の男のところへお嫁に行って暮しており、今しも男のフンドシを洗濯している。 「やア、相変らず御精がでるな、いつも達者で、めでたい」  と、和尚は川の流れのふちに立止って、女に話しかけた。 「オヤ、和尚さん。こんにちは。いつも和尚さんは顔のツヤがいいね」 「ウム、お互いに、まア、達者でしあわせというものだ。ところで、つかぬことを訊くようだが、お前さんはこの一月ほど、牛がでて、そのなんだな、蹴とばされるような夢をみなかったかな」 「なんの話だね。藪から棒に。和尚さんは人をからかっているよ」 「いや、なに、ただ、牛の夢にうなされたことがないかというのだよ」 「そんなおかしい夢を見る者があるものかね。ほんとに意地の悪いいたずら者だよ、和尚さんは」  女は馬鹿みたいにアハハアハハと笑った。和尚はてれて、ひきさがってきた。

「土の中からの話」坂口安吾(青空文庫)

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