道祖問答(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
法華経と道祖神の皮肉
- 歴史
- 幻想
- 文字数
- 2,228字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 京都府
この作品について
『宇治拾遺物語』に伝わる、道命阿闍梨と五条の道祖神の話を素材にした短編。和泉式部のもとで夜ふけに法華経を誦する阿闍梨の前に、道祖神が現れて皮肉まじりの礼を述べ、僧と神との問答が始まる。破戒の身のまま経を読む僧の理屈が、鮮やかに描かれる。
あらすじ
天王寺の別当、道命阿闍梨は、和泉式部のもとを訪れた夜ふけ、ひとり床を抜け出して法華経を誦し始める。身は無戒の僧でありながら、読経を欠かさないのが彼の習慣だった。やがて灯が暗くなり、翁が現れて、自分は五条西洞院の道祖神だと名乗る。清く読めば梵天帝釈も聴くが、今宵は女人に触れた身の読経で諸仏が近づけず、おかげで自分も聴聞にあずかれた、と皮肉まじりに礼を言う。怒った道命は、煩悩即菩提、男女の交会も万善の功徳と説き、小乗臭糞の持戒者の出る幕ではないと叱りつける。翁は黄色い紙の扇で顔を隠すように消え、遠くで一番鶏の声が上がって、春の夜が明ける。
登場人物
- 道命阿闍梨 天王寺の別当。無戒ながら法華経の読誦を欠かさない
- 和泉式部 道命の情人の一人
- 道祖神 五条西洞院に住む翁の姿で現れる
冒頭部(原文より)
天王寺の別当、道命阿闍梨は、ひとりそっと床をぬけ出すと、経机の前へにじりよって、その上に乗っている法華経八の巻を灯の下に繰りひろげた。 切り燈台の火は、花のような丁字をむすびながら、明く螺鈿の経机を照らしている。耳にはいるのは几帳の向うに横になっている和泉式部の寝息であろう。
「道祖問答」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
「業畜、急々に退き居ろう。」 すると、翁は、黄いろい紙の扇を開いて、顔をさしかくすように思われたが、見る見る、影が薄くなって、蛍ほどになった切り燈台の火と共に、消えるともなく、ふっと消える――と、遠くでかすかながら、勇ましい一番鶏の声がした。 「春はあけぼの、ようよう白くなりゆく」時が来たのである。
「道祖問答」芥川龍之介(青空文庫)
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