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木乃伊(中島敦)のあらすじ・登場人物

ペルシアの部将とエジプトの墓

  • 幻想
  • 歴史

中島敦 1942年(昭和17年)7月 「書き下ろし」

文字数
4,328字
読了目安
約9分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

中島敦の短編。「山月記」「文字禍」「狐憑」と並ぶ「古譚」四篇の一つで、1942(昭和17)年7月刊の第一創作集『光と風と夢』に収められた。舞台は紀元前6世紀、ペルシア王カンビュセスのエジプト遠征。東方の田舎の出で、夢想家と同僚に嗤われていた部将パリスカスが、エジプトの地に入ってから、何かを思い出しかけているように落ち着きを失っていく。古都メムフィスやサイスの墓所、獣の頭をもつ神々の壁画といった異国の景物を、漢語を多く用いた簡潔な文体で描く。カンビュセスの遠征の経緯はヘロドトス『歴史』に記された事績を下敷きにしている。

あらすじ

ペルシア王カンビュセスがエジプトに侵入したとき、部将のパリスカスは、見慣れぬ風物を前に何かを思い出そうとするように落ち着かなくなる。習ったこともないエジプト人の言葉がわかり、メムフィスでは方尖塔の文字を読んで、碑を建てた王の功業まで説明し、同僚たちを気味悪がらせる。狂暴になったカンビュセスは先王アメシスの屍を辱めようと、サイスの墓所を探させる。捜索に加わったパリスカスは、ある午後ひとりで古い地下の墓室に迷い込み、足もとに転がる木乃伊の顔を見た瞬間、すべてを思い出す。自分はかつてこの木乃伊だったのだ。祭司だったらしい前世の暮らし、寂しげな妻の顔、熱病の床で死を迎えた記憶がよみがえる。ところがさらに記憶の底をのぞくと、前世の自分もまた薄暗い墓室で、前々世の自分の木乃伊と向き合っていた。合わせ鏡のように無限に続く記憶の連なりに戦慄しながら、パリスカスは木乃伊から目を離せない。翌日、ほかの部隊の兵が、木乃伊を抱いて倒れているパリスカスを見つける。息を吹き返した彼は明らかに正気を失って譫言をしゃべり続けたが、その言葉はみなエジプト語だった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 大キュロスとカッサンダネとの息子、波斯王カンビュセスが埃及に侵入した時のこと、その麾下の部将にパリスカスなる者があった。父祖は、ずっと東方のバクトリヤ辺から来たものらしく、いつまでたっても都の風になじまぬすこぶる陰鬱な田舎者である。どこか夢想的な所があり、そのため、相当な位置にいたにもかかわらず、いつも人々の嘲笑を買っていた。

「木乃伊」中島敦(青空文庫)

末尾部(原文より)

 翌日、他の部隊の波斯兵がパリスカスを発見した時、彼は固く木乃伊を抱いたまま、古墳の地下室に倒れていた。介抱されてようやく息をふき返しはしたが、もはや、明らかな狂気の徴候を見せて、あらぬ譫言をしゃべり出した。その言葉も、波斯語ではなくて、みんな埃及語だったということである。

「木乃伊」中島敦(青空文庫)

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