妖魔の辻占(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
天狗が掻き乱す京と江戸
- 幻想
- 歴史
- 文字数
- 15,854字
- 読了目安
- 約32分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 京都府
- 神奈川県
この作品について
泉鏡花の短編。「新小説」1922年(大正11年)1月号に発表された。舞台は文政の初め。京都の公家屋敷に抜刀の武士が迷い込む騒ぎと、真夜中の箱根・芦ノ湖畔で語り合う二人の天狗の会話を軸に、将軍家と京の対比を、軽妙な語り口でユーモラスに描く。鏡花の怪異趣味と諧謔が出た一編。
あらすじ
文政の初め、京都の名門・比野大納言の御館で、護摩の結願の日の夕べに、抜刀した乱心の武士が奥へ迫る。居合わせた藤の局は慌てず、武士をなだめて手を取り、廊下を庭へ導いて、番衆に引き渡して事なきを得る。その夜更け、箱根の芦ノ湖畔では、水行をする羽黒の小法師のもとへ、秋葉の行者が杉の梢から舞い降りる。二人は魔界の天狗で、京都の御館へ武士を放り込んだのは行者、同じ日に江戸城の石垣の下へ屑屋を落として城中を大騒ぎさせたのは小法師だった。女の機転で乱心者をおさめた京と、屑屋一人に慌てふためいた将軍家とを比べて、二人は幕府の運命を笑う。事の起こりは、京の大納言が若年寄の松平大島守に「隅田川の都鳥が見たい」と所望したことにあった。大島守は武威を示そうと、都鳥を射て鎧櫃に納めて贈ることにし、家臣の小堀伝十郎が矢を射当てる。大島守の屋敷では、大納言を慕う白拍子の腰元・白妙が、愛しい都鳥が射られたと知って胸を痛め、病に臥していた。天狗たちはその報復として、使いに出た武士の伝十郎を攫ってきたのだった。二人は互いの捕らえた者を取り替えようとするが、人間の二人は恐れ入って自力で帰りたいと願う。夜明け前の箱根の関所を、武士は天狗の入れ知恵で通り抜け、その先で、天狗の仲間らしい姫たちの声と、一羽の都鳥の幻に出会う。「矢は返すよ」という声とともに矢が降り、腰を抜かした武士を、屑屋は笊に入れて背負い、「屑い」と呼びながら江戸へ帰ってゆく。
登場人物
- 藤の局 比野大納言家に仕える美しい女官。乱心の武士を機転でなだめる
- 羽黒の小法師 芦ノ湖で水行をする天狗。江戸城へ屑屋を落とした
- 秋葉の行者 金剛杖を携えた大山伏の天狗。武士を攫って京へ運んだ
- 小堀伝十郎 松平大島守の家臣。都鳥を射た武士
- 屑屋 江戸城の石垣下から攫われた紙屑買い
冒頭部(原文より)
伝へ聞く……文政初年の事である。将軍家の栄耀其極に達して、武家の代は、将に一転機を劃せんとした時期だと言ふ。 京都に於て、当時第一の名門であつた、比野大納言資治卿(仮)の御館の内に、一日偶と人妖に斉しい奇怪なる事が起つた。
「妖魔の辻占」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
屑屋が腰を切つて、肩を振つて、其の笊を背負つて立つた。 「屑い。」 うつかりと、…… 「屑い。」 落ちた矢を見ると、ひよいと、竹の箸ではさんで拾つて、癖に成つて居るから、笊へ抛る。 鴻の羽の矢を額に取つて、蒼い顔して、頂きながら、武士は震へて居た。
「妖魔の辻占」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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