るしへる(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
悪魔が語る善への憧れ
- 幻想
- 歴史
- 文字数
- 4,313字
- 読了目安
- 約9分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
切支丹宗門を論難した書『破提宇子』の異本という体裁をとり、禅僧の巴が出会った悪魔るしへるの言葉を伝える、キリシタンもの。悪魔は人間と異ならず、善を慕う心を捨てていないという弁舌が、宗門の教えを揺さぶる。擬古文を交えた文体も見どころ。
あらすじ
「予」が所蔵する『破提宇子』の古写本には、流布本にない第三段の悪魔の記事がある。著者の禅僧巴は、かつて南蛮寺に住んだころ、ある秋の夕暮れ、やんごとなき夫人から、夜ごと耳元で淫らな恋を囁く声に悩まされていると懺悔を聞き、それは悪魔の仕業だと戒める。その帰り道、法服をまとった黒い顔の男が現れ、自分は悪魔るしへるだと名乗る。るしへるは、悪魔は人間と異ならず、翼も鱗もなく、善を忘れてもいないと語り、夫人を誘惑しながら果たせなかったのも、善を愛するがゆえだと言って、霧のように消えてしまう。巴が伴天連に話すと信じてもらえず、かえって折檻を受けるが、彼はこの悪魔を疑うことはできず、悪魔もまた性は善であり、諸悪の根本ではないと確信する。
登場人物
- 巴 『破提宇子』の著者。もと南蛮寺に住んだ禅僧
- るしへる 悪魔。人間と変わらぬ姿で巴の前に現れる
- 夫人 悪魔の囁きに悩み、巴に懺悔するやんごとなき人
冒頭部(原文より)
破提宇子と云う天主教を弁難した書物のある事は、知っている人も少くあるまい。これは、元和六年、加賀の禅僧巴なるものの著した書物である。巴は当初南蛮寺に住した天主教徒であったが、その後何かの事情から、DS 如来を捨てて仏門に帰依する事になった。
「るしへる」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
われ、即ち惶として伴天連の許に走り、「るしへる」が言を以てこれに語りたれど、無智の伴天連、反ってわれを信ぜず。宗門の内証に背くものとして、呵責を加うる事数日なり。されどわれ、わが眼にて見、わが耳にて聞きたるこの悪魔「るしへる」を如何にかして疑う可き。悪魔また性善なり。断じて一切諸悪の根本にあらず。
「るしへる」芥川龍之介(青空文庫)
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